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 米IBMは今年1月、同社が保有する500件の特許をオープンソース・コミュニティに公開すると発表した。その中には特許には,OSが使用するダイナミック・リンク手法,ファイル・エクスポート・プロトコルに関するものなど、重要な特許が含まれる。IBMの狙いはどこにあるのか。同社で知的財産権を担当するジム・スターリング副社長に聞いた。

――500件の特許をオープンソース・コミュニティに開放した狙いは。
 オープンソース・ソフト(OSS)の利用は、あらゆる分野、地域で急激に伸びています。だが、一方でOSSの開発者は、常に特許侵害を心配しなければなりませんでした。

 そこで当社は500件の特許の開放を決めました。「パテント・コモンズ(特許共有資産)」という概念を提唱し、そこに500件の特許を拠出します。

 OSSに利用する限り、パテント・コモンズに登録したそれらの特許の権利を主張しないことを公約します。これはお客様に対する公約でもあります。これにより、お客様は特許侵害を心配せずに、安心してOSSを利用できます。こうした当社の取り組みは、オープンソース・コミュニティだけでなく、お客様やアナリストから高く評価されています。

 パテント・コモンズは一種の中立ゾーンです。他社にも、そこへの特許の開放を呼びかけています。将来は、パテント・コモンズに登録された数千もの特許を、数百万のOSS開発者が権利侵害の恐れなしに利用し、より良いOSSを開発してほしいと考えています。

――SCOによる訴訟が、今回の開放のきっかけなのか。
 違います。裁判沙汰がきっかけで、今回の特許開放を決めたわけではありません。法律問題を機に、開発者やお客様が特許の開放を当社に呼びかけたというような事実はありません。(今回の決定は)法的な理由ではなく、あくまでもOSSの発展を願ってのことです。

――パテント・コモンズに登録された特許は、どのようなオープンソース開発者も利用できるのか。
 オープン・ソース・イニシアティブ(OSI)による定義を満たす、すべてのオープンソース・プロジェクトが利用できます。個人や企業といった制限はありません。それ以外の条件はいっさいありません。

――パテント・コモンズなどと言わずに、IBMが特許を放棄する方がシンプルに思える。
 当社はパテント・コモンズに登録した特許の権利を放棄するわけではありません。権利は留保し続けます。そのほうが私たちの特許を使う発明者を保護できると考えています。すなわちIBMが特許を留保していれば、その他の企業からの攻撃を阻止できますから。また特許の維持管理にかかる費用は、IBMが負担します。

――利用価値の乏しい特許を開放したのでは意味がない。
 当社は、利用価値の乏しい特許など所有していません。そうした特許は、(知的財産権の)ポートフォリオに存在さえしていません。なにしろ当社は、研究開発(R&D)に年間58億ドルを費やしているわけですから。

 今回の公開した500件の特許の価値を金額に換算すると、数千万ドルになるでしょう。我々は、それだけ大きな意志決定をしたのです(500件の特許のリストはこちら)。

 我々は、パテント・コモンズによって、イノベーション(技術革新)を起こしたいと考えています。イノベーションには、二つのタイプがあります。独自技術によるイノベーションと、オープンな技術によるイノベーションです。どちらもお客様には重要です。私たちは、所有する特許をパテント・コモンズに開放することによって、後者のオープンな技術によるイノベーションを加速したいと考えています。

 数年後、パテント・コモンズに数千件の特許が登録されたとき、すばらしいアイデアを持ったベンチャー企業は、その特許を使うことにより、すばらしい製品を迅速に市場に提供できるようになります。つまりパテント・コモンズは単に知的財産権の範囲にとどまらず、経済発展をもたらすものなのです。

――IBMにとっての経済的なメリットは。
 当社のビジネス戦略は、オープン・スタンダートに立脚しています。オープン・スタンダードこそが、お客様と当社の成長を推進するものと信じています。

 パテント・コモンズによって、オープン・スタンダートが定着すれば、結果として、当社のハードウエアやソフトウエア、サービスの売り上げが増えます。

――他のベンダーはパテント・コモンズに本当に賛同するのか。
 概念の発表以来、数十社から問い合わせを受けました。現在、数社と真剣に交渉中です。ここ数週間以内に、次の1社を発表できるでしょう。

 ここで一つ付け加えておきたいのは、IBMがパテント・コモンズをマネージするわけではないことです。それはコミュニティに任せたいと考えています。

――最近、特許の範囲が広がり過ぎているという批判がある。
 そうした批判があることは承知しています。問題の本質は、特許の品質を評価する体制にあると考えています。米国に限った話ではありませんが、特許、特にソフトウエア特許の新規性を判断するのは、非常に難しいことです。これは米国に限らず、全世界で共通する問題です。

――最後に一つ。今回、パテント・コモンズで特許を無償公開したことで、それを発明した社員は報償を得る機会を奪われたのではないか。
 その問題に関しては、別の特許を発明してもらうしかないですね(笑)。というのは冗談です。

 発明者には、パテント・コモンズに公開しなかったときに得られる収益を算定して、それに対する対価をきちんと支払います。

聞き手は、星野 友彦=日経コンピュータ