企業合併,持ち株会社を利用した経営統合が,かつてない勢いで広がっている。それに伴い,過去に例のない数の大規模なシステム統合プロジェクトが進んでいる。
 最もダイナミックに動いているのは金融業の世界である。損害保険業界では,この3年間に10社以上が合併や経営統合を経験し,システム統合を実施した。都市銀行でも,UFJ銀行,みずほフィナンシャルグループ,三井住友銀行,りそなグループが,合併や経営統合のための大規模なシステム統合を進めた。地方銀行や信用金庫では,合併に伴うシステム統合に加えて,別会社のままでもシステムを共同利用する動きが相次いでいる。
 金融業だけではない。日本製紙と大昭和製紙を中心とした日本ユニパックグループの誕生や,日本航空と日本エアシステムの経営統合,三井化学と住友化学工業の合併,NKKと川崎製鉄の経営統合など,さまざまな業界で,業界を代表する大手企業の合併が次々と発表になった。民間企業に加えて,昨年5月のさいたま市の誕生が象徴するように,地方自治体の合併も急増し始めている。
 システム統合は情報システムに関係する人間にとって,身近な問題になりつつある。
 一方でシステム統合が,業務に与える影響はどんどん大きくなっている。みずほ銀行を襲ったシステム障害は記憶に新しい。日本製紙は過去の合併の際に,システム統合を上手に進めることができなかったために,在庫管理ができない状況に追い込まれたという。一歩対応を誤れば,企業活動に大きなマイナスをもたらす。合併発表の記者会見で,企業トップが自らシステム統合について言及することも珍しくなくなった。
 システム統合に大きな困難が伴うとしても,できるだけ早く,できるだけコストを節約しながら進めなければならない。合併や経営統合の効果を発揮するには,システム統合が不可欠だからである。
 例えば,今年7月に誕生した損害保険ジャパン(損保ジャパン)では,システム統合を実施しなければ,4種類の業務処理の流れが併存してしまうことになっていた。同社のシステム担当役員である佐藤正敏取締役は,「代理店に4種類の営業端末を置くことになる。物理的なスペースを考えても,素早くシステム統合を実施せざるを得なかった」という。同社の例に限らず,システム統合を終了させなければ,各種業務の一本化や店舗,子会社の統廃合ができないのが現状なのだ。
 システム統合は一大プロジェクト。まん然とプロジェクトを進めていては,システム統合を乗り切ることはできない。多少の摩擦は覚悟の上で,勇気を持ってさまざまな決断を下す必要がある。話題の企業を中心に,システム統合にかかわる“決断”を取材した。

(中村 建助)


本記事は日経コンピュータ2002年8月26日号からの抜粋です。そのため図や表が一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。なお本号のご購入はバックナンバー,または日経コンピュータの定期ご購読をご利用ください。


第1部:損保大手,時間と闘い,混乱を制す

図1●損保業界上位5社の合併と基幹系システム統合の時期

 1999年4月時点で日本の損保の売上高上位5社は,東京海上火災保険,安田火災海上保険,三井海上火災保険,住友海上火災保険,大東京火災海上保険の順であった。しかし,3年後の現在そのまま残っているのは東京海上だけ。他の4社は損保ジャパン,三井住友海上,あいおい損害保険,日本興亜損害保険に一新された。

 残る東京海上も,日動火災海上保険,朝日生命保険,共栄火災海上保険とミレア保険グループを結成。今年4月には,持ち株会社ミレアホールディングスを設立して東京海上と日動火災の2社が子会社となり,商品の統一とシステムの統合を決定している。

 このすさまじい業界の変化は,同時にシステム統合ラッシュを引き起こした(図1[拡大表示])。ミレアを含めた損保上位5社のシステム統合コストを合計すれば,1000億円を超す見込みだ。既存システムの統合にかかわる部分だけでも,100億円を超す統合プロジェクトを各社が実施したことになる。100億円といえば大手損保の年間情報化投資額に近い。

 損保各社のシステム統合には,それぞれ大きな決断があった。4社の合併になる損保ジャパンは業界で唯一,大量の契約データの変換に挑戦した。三井住友海上では一部の営業現場で,オンライン化していた事務処理を紙での確認に戻す道を選択せざるを得なかった。合併前の両社のシステムに強い特色があったあいおい損保は,それぞれを生かし続けるため統合作業が長期間にわたった。逆に迅速な意思決定で短期に統合を成功した日本興亜損保でも,事務処理の急変で営業現場に混乱が生じて緊急の対策が必要になった。

損保ジャパン
業界で唯一の一括データ移行に挑戦

図2●損保ジャパンは他の損保と異なり,データ一括移行方式を採用した

 損保業界で最も挑戦的な統合プロジェクトを選んだのは損保ジャパンである。損保システムの中で,統合に大きな手間がかかるのは,顧客の契約情報を管理する「計上系」システムだ。同社はこの計上系システムの統合で一般的な「満期移行方式」ではなく,あえて手間がかかると言われる「データ一括移行方式」を採用した(図2[拡大表示])。

 銀行口座や生命保険契約とは異なり,損害保険の商品には1年で契約を更新するものが多い。そのため新システムさえ決まれば,既存データの移行作業をせずとも,満期になった契約の更改ごとに1契約ずつ新システムへ移行できる。銀行のようなオンライン取引はないから,1年をかければこの方法でシステムの統合が可能なのだ。これが満期移行方式である。

 これに対し損保ジャパンが採用したデータ一括移行方式は,各社が管理しているデータの形式を変換して,一気にシステムを統合するというもの。損保ジャパンは全体を安田火災のシステムに統一(片寄せ)するため,日産火災などが管理している数百万件のデータを安田火災のデータ形式に変換することになった。

 なぜ損保ジャパンは,1社だけ一括データ移行方式を採用したのか。同社の友近浩之情報システム部課長は,「当社は4社の合併であり,満期移行方式を採れば,最低でも1年間は4系統のシステムを稼働させなければならない。これでは営業現場への負担が大きい」と語る。統合コストについては,「満期移行方式の場合,一定期間にわたって,端末から新旧両方のデータベースにアクセスする必要が生じるため,リレーコンピュータを設置する必要があるし,ハードの統廃合にも時間がかかる。一概にデータ一括移行方式が割高ともいえない」と判断した。

 損保ジャパンでは昨年2月にパイロット・システムを開発し,安田火災のシステム(IBMメインフレーム)に,データの一括移行が可能かどうか検討した。結論は「何とかなる」。ここで同社は,データ一括変換方式を選んだ。これが損保ジャパンにとって最大の決断だった。

(中略)

第2部:都市銀行,トラブル連鎖からの脱出

図6●合併,経営統合に伴う都銀4行の勘定系システム統合の方針と現状
(画像をクリックすると大きい画面でご覧になれます)

 今年7月,三井住友銀行は勘定系システムの統合が無事成功に終わったと発表した。今年1月にシステム統合したUFJ銀行が口座振替トラブルを経験。4月にはみずほ銀行も過去に例のない大トラブルに見舞われたが,三井住友銀行は,こうしたトラブルの連鎖から脱出した。

 これで,システム統合を控えた都銀は後一つ。来年3月に大和銀行とあさひ銀行が合併して誕生する,りそな銀行である。りそな銀行のシステム統合は,大和銀行とあさひ銀行のシステムを統合するだけでなく,新たに両行から分かれて誕生する埼玉りそな銀行のシステムを分離させるという作業が加わる複雑なもの。みずほ銀行の例もある。りそなグループは,死力を尽くしてシステム統合の成功を目指す。

 都銀のシステムは,一度障害を起こしたときの社会的影響が極めて大きい。システム統合は『できるだけ早く安く』というのが原則だが,都銀の場合は,リスクの回避が極めて重要になる。三井住友銀行もりそなグループも,このことを強く認識した上で,リスクを最小限に抑えることを最優先と決断して,システム統合を進めている。

三井住友銀行
分散処理生かし分割方式で統合

 今年7月22日,三井住友銀行は勘定系システムを一本化した。昨年4月の三井住友銀行の発足以来15カ月間を支えた,旧2行のメインフレームをリレーコンピュータで結んでの暫定的な勘定系システムの運用にピリオドを打った。

 さくら銀行と住友銀行が合併を発表したのは1999年10月のこと。すでに情報系システムの移行は昨年度上期に終了。残る対外接続系システムも10月末までには統合を終了する方針である。勘定系,情報系,国際系などを合計した統合コストは合計で1000億円超に達した。

 三井住友銀行の茅野倫生情報システム企画部副部長は,「合併が決まって1カ月後には,システムの統合方針を固めていた。月並みかもしれないが,早々に方針を一本化したことで統合を迅速に進めることができた。勘定系はさくら銀行に比べて住友銀行のシステムが新しかったこともあり,住友銀行のシステムを選ぶという方針が決まった」と話す。


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 締め切りを過ぎた後で,このシステム統合特集の内容に変更しなければならない点が発生してしまいました。損保業界の部で触れたミレア保険グループの共栄火災海上保険が,同グループを離脱する可能性が出てきたのです。共栄火災は,従来の方針を変更して農協系の金融機関である全国共済農業組合連合会(全共連)の子会社になるというのです。全共連によれば,「検討を始めたのは事実だが,子会社化するかどうかは未定だ」とのことです。とりあえずお知らせしたいと思います。

 共栄火災のミレア保険グループからの離脱が本決まりになれば,同グループのシステム統合にも,何らかの影響が生じるのは避けられません。もっとも,ミレア保険グループのシステム統合担当者から見れば,システム統合作業にまつわる悩みが少しは減る部分もあるようです。

 ミレア保険グループは,基幹系システムに先駆けて,グループウエアなどの情報系システムの統合を進めていますが,共栄火災との情報系システムの統合を進める上で,グループの各企業で利用しているパソコンのIPアドレスの重複を解消する必要がありました。東京海上と日動火災の場合には,このアドレスに重複がなかったので,旧来のアドレスをそのまま流用できたのですが,日動火災と共栄火災には重複するIPアドレスがあるためです。

 個別のパソコンごとに変更する必要のあるIPアドレスの調整は,多数のパソコンをかかえる企業のシステム担当者にとっては結構な難行です。共栄火災がミレア保険グループを離脱することになれば,この作業からだけは開放されることになります。(中村)