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地方自治体が続々とオープンソースの旗の下に参集している。大手ベンダーに支配された商慣習やコストの不透明さと闘い、地域のIT産業を活性化するための挑戦が始まった。先行する自治体では設計や開発作業に着手。入札慣行や地場ベンダーのスキルなど、表面化した問題の克服にも取り組む。オープンソースの活用は、NPOや住民を巻き込んだコミュニティ形成にまで、理想が広がる。

(鈴木 淳史)

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 「オープンソースは、これからの自治体システムの一つのモデルになるだろう。内容を公開し共有財産にすることで新規参入と競争を促し、これまでの不透明な慣行(随意契約)を断ち切る」。宮城県の浅野史郎知事は、電子県庁システムに採用するオープンソースのモデルに大きな期待を寄せる。

 宮城県は2003年度に、県庁と県下の市町村を結ぶ「共通基盤システム」を構築する。そのソース・コードや設計仕様を、オープンソースとして一般に公開する方針だ。浅野知事は「システム開発の知識を地元IT企業に集積できるため、地場産業の育成にもつながる」と期待を語る。

 財源不足に悩んでいる宮城県は、1999年度に財政危機を宣言。最悪の場合、「準用財政再建団体」として国の管理下におかれ、社会資本整備などが制限される。コスト削減の切り札が、情報システムの分野ではオープンソースの採用だ。

 オープンソースの積極採用に動く自治体は全国に広がっている。これらの自治体の狙いは、単にLinuxなどに代表されるオープンソースOSやデータベースなど各種ツールを用いて、システム構築の初期費用を安く抑えることだけではない。宮城県のように、システム全体をオープンソースとして公開することで、(1)地域のIT産業の活性化と、(2)不透明な継続契約(随意契約)による情報システムの運用コスト増を防ぐことを目的としている。都道府県レベルでの事例が多いのは、財源の少ない市町村に代わって県レベルでシステムを構築し、共同利用を目指しているためだ。

大手ベンダーの支配から脱却

 自治体システム構築の現状に、特に大都市圏から離れた自治体の不満は大きい。北海道総合企画部次長の石川久紀IT推進室長は、「システムを構築しても、そのノウハウは東京の大手ベンダーにだけ蓄積する。地元のITベンダーは下請けになるだけで、結果として地元にはスキルも金も残らない」と憤慨する。オープンソースを掲げる自治体のIT関連担当者に共通する思いだ。

 これまでの自治体システム構築では、パッケージ製品であることなどを理由に、大手ベンダーが事実上自治体のシステムのソース・コードや設計仕様を握っていた。オープンソースの利用を要求条件とすることで、そのソース・コードや設計内容を公開させることができる(図1[拡大表示])。

図1●地方自治体がオープンソースの採用で、大手ベンダーの集中支配からの脱出に挑戦する

 もちろんOSからツール、アプリケーションまでのすべてをオープンソースで固めることは現実的ではない。だが、できるだけ広くオープンソースを採用することで、大手ベンダー以外の、主に地元のITベンダーにも門戸を開きやすくなる。長崎県総務部の島村秀世 参事監情報政策担当は、「オープンソースのツールは、資金に乏しい地元の中小ITベンダーでもソフトを安価に手に入れられるし、インターネットや本から勉強できる。メーカーの高い製品を購入したりセミナーを受ける必要はない」と語る。

 地元のITベンダーなどの新規参入を促進し、多くの参入者を形成すれば、競争によって適正なコストとサービスを得ることが期待できる。大手ベンダーが安値で落札し、次年度以降の随意契約で保守・運用コストをつり上げる事例は、本誌でもたびたび取り上げている。オープンソース化すれば保守・運用面でも、他のITベンダーから不適切な部分を指摘しやすくなり、競争環境を形成できるとの考えだ。

市町村合併をにらんだ動きも

 市町村合併に伴うシステム統合も、クローズドソースの問題点を浮かび上がらせ、オープンソース採用を後押しする。

 新潟県新発田市は隣接する豊浦町と今年7月7日に合併する。豊浦町のシステムを、新発田市が自前で運用するNECのメインフレームに移行する方針が固まっているが、ここで大きな問題が生じた。

 豊浦町は、システム・インテグレータであるBSNアイネットのシステム・センターと自治体向けソフトを利用している。新発田市は、BSNアイネットに処理ロジックやファイル構造、コード体系などを開示するように要求した。だがBSNアイネットは、自社のパッケージ・ソフトであることを理由に、豊浦町に所有権があるデータ内容しか開示に応じなかったという。

 新発田市 市長公室合併推進課の榎本真堂参事は、「データ移行の変換プログラムを作るのにひどく手間取った。2002年10月の合併協議会設置直後から新発田市とNECが共同で設計に着手した。結局この1月まで4カ月も要したが、ほとんどはBSNアイネットでどう処理しているのか、出力前後のデータを手探りで解析する作業が占めた」と説明する。

 このような問題から、新システムをオープンソースで構築し、近隣の他の自治体とアプリケーションを共有利用したいと考える自治体も出てきた。2005年3月までに合併した自治体には、合併特例法によって国から優遇措置がある。これを利用して、合併を機にオープンソースによる新システム構築に走る動きが今後続出しそうだ。

地元ITベンダーを主役に

 自治体のオープンソース採用の動きは、地域のIT産業活性化策と密接に連携している。宮城県と長崎県は県庁のシステム構築案件でオープンソースの採用と並行して、地元のITベンダーを積極的に登用している。北海道や福島県会津若松市も同様に地元ベンダー重視を打ち出している。


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