食品関連企業がトレーサビリティ(生産履歴の追跡)システムを続々と稼働させている。相次ぐ不祥事で失った消費者の信頼を取り戻すためだ。だが、システムの構築は意外に難しい。システム化の舞台裏を探った。

(鈴木 淳史)

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 「トレーサビリティは実現できて当然のインフラ」。スーパー大手イオンで牛肉の仕入れなどを担当する戸田茂則 牛肉カテゴリーマネジャーはこう断言する。同社は傘下のスーパー「ジャスコ」で2001年11月から、牛肉の生産履歴情報を消費者に公開し始めた。まずは当日販売する牛肉の“原料”である肉牛のBSE(牛海綿状脳症・狂牛病)検査合格証などを店頭に掲示。昨年2月には、合格証のイメージに加えて、与えた飼料などの情報も店頭の端末から引き出せるようにした。

 さらに昨年12月からは、牛肉のパック一つひとつに識別番号を記載。この番号を同社のWebページに入力すると、同様の情報を閲覧できる仕組みを作った。現在は、関東地区のジャスコ35店舗で販売している黒毛和牛が対象だが、順次対象店舗と商品を拡大していく。戸田マネジャーは「トレーサビリティを実現できなければ消費者の信頼を得られず、結果として競争に負けてしまう」と力説する。

相次ぐ「食の不祥事」で注目集まる

 2000年夏の雪印乳業食中毒事件や2001年9月のBSE感染牛の発見以降、国内の消費者の「食の安全」に向ける目は厳しくなる一方だ。

 信頼を取り戻そうと、食品の生産・流通・小売りに携わる各社はトレーサビリティの実現を急ぐ。牛肉を例にとると、イオンに続いて伊藤ハムが昨年3月、日本ハムとホクレンが今年に入ってトレーサビリティ・システムを稼働させた。加工食品の分野でも2001年12月の石井食品を皮切りに、カゴメ、キユーピーなどがトレーサビリティ・システムを相次ぎ動かしている。

 政府もトレーサビリティの導入を促す。小泉純一郎首相を本部長とする政府のIT戦略本部は今年3月にまとめた新しいe-Japan戦略の素案で、「2010年までにあらゆる食品のトレーサビリティを実現する」という目標を掲げた。

原材料の「特定」と「証明」がカギ

 注目を集めるトレーサビリティだが、その舞台裏はほとんど知られていない。トレーサビリティ・システムを実現するには、(1)一つひとつの製品の流通、生産過程をさかのぼって、使われた原材料を特定する仕組みと、(2)使われた原材料が安全性に問題がないかを証明する仕組みの二つが必要になる。

 牛肉の場合、まず小売業者は仕入れた部分肉(肩やももといった部分ごとに切り分けられたブロック)から原料の肉牛を特定できなければならない。その肉牛が生産牧場でどのような飼料を与えられたかや、BSE検査に合格しているかを把握する仕組みも必要になる。これら二つが実現できて初めて小売業者は販売する牛肉の生産履歴を消費者に説明できる。

図1●トレーサビリティ・システムの仕組みは食品メーカーによって異なる。原材料の数や製造工程数によってシステムの難易度が変わる

 加工食品の場合は、食品メーカーが消費者に対する説明責任を負う。最終製品に記載した「製品番号」から、その製品にどのような原材料を使ったかを追跡できなければならない。さらに原材料の安全性、すなわち「使った野菜に基準値を超える農薬が残留していないか」や「遺伝子組み替えの穀物を使っていないか」を証明する仕組みを作る必要がある。

 それでは、食品メーカー各社は、どうやってトレーサビリティ・システムを実現したのだろうか。使う原材料が少ない食品(牛肉など)と、複数の原材料を使う加工食品(野菜ジュース、ベビーフードなど)の二つに分けて説明しよう(図1[拡大表示])。

個体番号を小売りまで引き継ぐ

 牛肉はトレーサビリティ・システムの導入が最も急がれる食品の一つである。牛肉の原料、すなわち肉牛の特定は比較的容易に思える。最終製品である、店頭で販売される一つひとつのパックには、通常1頭の肉牛を加工した肉しか入っていないからだ。

 ところが牛肉は、生産から食肉処理、加工、小売りに至るまでに、複数の企業が関与する。このため従来は、流通の過程で肉牛の情報が失われてしまいがちだった。部分肉に加工されてしまうと、その部分肉がどの肉牛のものかを追跡するのは容易ではない。


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