バイオメトリクス認証の普及に弾みがついている。日米欧で、顔や指紋の情報をICチップに封じ込めた「電子パスポート」の導入が目前に迫り、それをきっかけに標準化への取り組みが進む。指紋センサーの低価格化と小型化は、携帯電話機や携帯情報端末といった一般消費者向け商品への採用を可能にした。バイオメトリクス認証は、今まさに旬を迎えようとしている。

(本間 純)


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 指紋、顔、瞳、筆跡…。「バイオメトリクス認証(生体認証)」とは、一人ひとりの人間が固有に持つ、体や行動の特徴を使った認証方法である(図1[拡大表示])。

図1●バイオメトリクスの主な分野。指紋など体の部位の特徴を使うものと、筆跡など行動の特徴を使うものがある

 現在多くのコンピュータに使われているユーザー名とパスワードによる認証は、他人に盗まれる危険をはらむ。パスワードを複雑にしたり、頻繁に変えたりして不正利用を防ごうとすれば、本人も覚えていられない。つまり、使い勝手の良さと、高いセキュリティを両立することは不可能だった。「装置に触れたり、のぞき込んだりするだけで、簡単に高いセキュリティを得られる」。これがバイオメトリクス認証のメリットだ。

 バイオメトリクス認証は最初、軍事施設や発電所で使われ、徐々に計算機室の入退室管理や企業内LANのユーザー認証へと広がってきた。しかし、大部分の人にとっては利用機会がなく、遠い存在だったと言えるだろう。ところが、ここに来て、風向きが変わり始めた。世界規模での「電子パスポート」導入がキッカケとなった。

米国の電子パスポート導入に大あわて

 2001年9月11日の同時多発テロ事件を機に、米政府は「ホームランド・セキュリティ(本土防衛)」の対策を矢継ぎ早に打ち出した。その目玉が電子パスポートである。

 電子パスポートは、パスポートに埋め込んだICチップに、顔や指紋などのバイオメトリクス情報を保存したものだ。航空機への搭乗や入国審査の際、これをカメラやセンサーでとらえた画像と照合し、パスポートの偽造による違法な出入国を防ぐ。米国への入国にビザが必要な国からの渡航者に対しては来年1月から、日本を含むビザ免除国の渡航者に対しては来年10月以降に導入する。

 米国は、先進8カ国首脳会議(G8)などの場面で、各国政府にテロ対策への協力を要請してきた。今年6月に欧州連合(EU)は、来年10月以降米国と同時に電子パスポートを導入する方針を明らかにした。日本政府も、2005年秋以降に導入する見込みだ。

 電子パスポートの実用化を前に、現場での準備は着々と進んでいる。2003年1月から3月まで、新東京国際空港(成田空港)公団は日本航空などと共同で、電子パスポートの実験「e-チェックイン実証実験」を実施した(写真1[拡大表示])。

写真1●新東京国際空港(成田空港)の「e-チェックイン実証実験」。顔認証と虹彩認証を併用する。旅客は初回のみ、ゲート前にある(1)の装置でバイオメトリクス情報を登録する。(2)の顔認証装置に顔を向けると、(3)の入場ゲートが開く。手荷物検査場と搭乗ゲートには(4)の装置があり、虹彩認証と搭乗券の確認を行う

 企業や自治体でも、バイオメトリクス認証の採用事例が増えている。例えば、大手コンビニエンス・ストアのローソン。同社の会員カード「ローソンパス」の顧客情報56万人分が流出した事件は記憶に新しい。同社は今年8月6日、事件の対策として、関係部署の端末に指紋認証装置を導入することを発表した。また京都府の園部町は、今年8月25日の住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)の2次稼働に合わせ、指の血管の形状を測定する血管認証装置3台を庁内LANに導入した。

携帯電話機への搭載で市場が急拡大

 消費者向け製品へのバイオメトリクス認証装置の搭載も始まった。NTTドコモが今年7月に市場に投入した、指紋センサーを搭載した携帯電話機「ムーバ F505i」は、その象徴的存在だ。最も身近な電子機器への搭載で、バイオメトリクス認証の“大衆化時代”が幕を開けそうな気配である。


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