「ITベンダーが物流サービスを手がけているようだ」。小口貨物輸送最大手の米UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)は、米国でよくこう評される。それを象徴するかのように、同社はここ数年、年間10億ドル(1ドル=110円換算で1100億円)規模のIT投資を続けている。しかも、その7割は新規案件への投資だ。既存システムの廃棄ルールの明確化や標準化の徹底で、保守・運用費を投資額の3割程度に抑える。

(戸川 尚樹=米アトランタ)


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■会社概要
 UPS(United Parcel Service)

小口貨物輸送の最大手。航空輸送と陸運により、世界200以上の国と地域に書類や小包などの荷物を配送する。航空輸送のフェデックスに比べ、きめ細かな陸運サービスに強みを持ち、米国GDP(国内総生産)の6%相当の荷物を運ぶ輸送力を備えている。配送車両8万8000台、航空機265機を保有する。配送センターの数は、世界120カ国に750カ所以上ある。今年4月1日、ヤマト運輸との合弁を解消し、100%出資の日本法人「UPSジャパン」を設立した。

●従業員数
  ―36万人

●本社所在地
  ―米国ジョージア州アトランタ市

●URL
  ―http://www.ups.com/

 10億ドル(1ドル=110円換算で1100億円)――。米UPSの年間IT投資額だ。同社は小口貨物輸送分野で世界最大の企業。日本での知名度こそ米フェデックスに劣るが、世界200以上の国・地域に配送網を構え、1日当たり1360万個の荷物を扱っている。2003年度(2003年12月期)の売上高は335億ドル(同3兆6850億円)と、国内最大手の日本通運(1兆6777億円)の2.2倍に達する。

 そんなUPSにとっても、年間1100億円のIT投資は決して小さいものではない。同社の年間純利益は29億ドル(同3190億円)なので、その3分の1相当をIT関連に費やしていることになる。

 なぜ、UPSはこれほどまでにIT投資に積極的なのか。それは経営トップが「グローバル競争に勝つためには情報化が不可欠」と確信しているからにほかならない。

 「情報インフラの整備なくして、顧客の荷物を正確かつ素早く、全世界に届けることなどできない」。米UPSのマイク・エスキュー会長兼CEO(最高経営責任者)はこう断言する。「顧客サービスのレベルや社内の業務効率を高めるには、情報システムの強化が欠かせない」と続ける。

過去10年で1兆6500億円を投資

 UPSがITに積極投資する背景には、宿敵フェデックスとの激しい競争がある。国際貨物輸送の分野では、配送網と併せて、情報インフラの優劣が競争力を大きく左右する。

 その典型はフェデックスが10年前に始めた「貨物追跡サービス」。集荷から到着に至る荷物の配送状況をインターネットで顧客に開示することで、顧客満足度を向上させ、一気にシェアを拡大した。

 危機感を抱いたUPSは、1994年から2003年末までの10年間で計150億ドル(同1兆6500億円)のIT投資を敢行。基幹系システム「DIALS」の機能を拡張し、貨物追跡サービスを1998年から提供した。

 競争の舞台は貨物追跡サービスに限らない。顧客満足度だけでなく、業務効率の向上にも、システムの整備は欠かせない。そこでUPSは90年代半ば以降、DIALSの機能強化を続けた。最適な配送経路のシミュレーションする機能などを追加した。

 並行して陸運の配送担当者に無線通信機能付きの携帯情報端末「DIAD」を配備した。現在毎日7万人の配送担当者が、DIALSからDIADの画面に送信される配送指示データや最適経路データを手がかりに作業している。

 昨年6月にはケンタッキー州ルイビル市近郊にあるハブ空港「ワールド・ポート」に、仕分け業務を自動化する「ソーティング・システム」を導入した。このシステムは、荷物の集荷時に張ったバーコード付きラベルの情報を使って、荷物を自動的に仕分けする仕組み。航空機の積載可能量や荷物の配送期日などを勘案して、「配送効率を極限まで高めている」とケン・レーシーCIOは自信をのぞかせる。

 バーコード・ラベルは、総延長177kmのコンベアのいたるところに取り付けたセンサーが読み取る。これまで人手でバーコード・ラベルを読み取っていたときより、作業効率は格段に向上した。1時間当たり最大30万個の荷物を自動仕分けする能力がある。

新規投資
CEO自らが三つの観点で投資判断

 このように野心的なシステムを次々と稼働させるUPSだが、IT投資は決して“聖域”というわけではない。それどころか、同社には新規のシステムの投資案件を精査するルールがある。「すべての案件の投資効果を徹底的に審査する」(レーシーCIO)。

図1●米UPSで新規システムへの投資を最終決定する「マネジメント・コミッティ」の役割
 新規システムへの投資を最終的に決断する役割は、経営の最高意思決定機関「マネジメント・コミッティ」が担う。CIOだけでなく、CEOやCOO(最高執行責任者)、CFO(最高財務責任者)など12人の経営層が参加する場で、投資の可否を厳しくチェックする(図1[拡大表示])。

 投資案件は通常、利用部門とIT部門の担当者が共同で立案する。この投資案件をマネジメント・コミッティが審査する。

 審査の段階では「顧客サービスのレベルは上がるのか」、「システム・コストを削減できるのか」、「社内業務の効率は向上するか」といった三つの指標から投資効果をチェックし、承認か却下かの判断を下す。

 三つの指標は、すべてROI(投資利益率)に換算する。UPSでは、ITに限らず新規投資は、予測される効果を金額換算し可否を決めるのが社内ルールだ。どうしても金額換算できないものは、定性的な効果を投資案件の申請書に記載する。


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