2月26日、日本IBMの大歳卓麻社長は都内で開いた同社のイベントで講演した。講演内容は、IBMが提唱する経営コンセプト「eビジネス・オンデマンド」についてであった。その2日前、2月24日に開かれた日本IBMの決算説明会でも、大歳社長は熱弁をふるった。オンデマンドに関する質問に対し、「お答えする前に、ぜひコメントしたい」と断り、次のように述べた。「eビジネス・オンデマンドは、お客様が目指される経営のあり方をIBMなりに表現したものです。ですから記者の皆さんはぜひとも、お客様のほうにハイライトを当てて下さい」。

 大歳社長がこう語った背景には、「eビジネス・オンデマンドはIT(情報技術)の話」、「ITを電気や水道のように利用するユーティリティ・コンピューティングのこと」といった誤解の広がりがある。IBMの意図が理解されない状況は米国においてもまったく同じである。

 このため1月末にはIBMのサミュエル・パルミサーノCEO(最高経営責任者)自身がInformationWeek誌に寄稿し、「eビジネス・オンデマンドはビジネスモデルの変革と創造のことであり、ユーティリティ・コンピューティングの話ではない」とわざわざ主張している。

 とはいえ言葉自体が誤解を招きやすかったと言える。eビジネス・オンデマンドはもともとユーティリティ・コンピューティングを指す言葉だったからだ。この言葉を作ったのは、IBMのサービス事業部門で、「標準化されたビジネス・プロセスやアプリケーションをネットワーク経由で提供するサービス」を意味していた。これをパルミサーノCEOが経営コンセプトの言葉として再定義し、昨年10月に再度発表したのである。

 eビジネス・オンデマンドは今までと何が違うのか。オンデマンドとは、「要望に応じて」という意味である。つまり「顧客の要望を素早く察知し即応するビジネスを展開すること」(大歳社長)を指す。

 パルミサーノCEOはおおよそ次のように説明している。「もはやITの優位性を誇っても、IT産業は成長できない。カスタマは、ビジネスモデルの変革と創造にだけ投資するからだ。これまでもそうだった。後方事務の自動化、ビジネス・リエンジニアリング、組織階層の削減、アウトソーシング。ではビジネス変革に関する投資として何が残っているか。それはビジネスが迅速かつ柔軟に応答(Respond)できるようにすることだ」。

 「IBMから経営の話など聞きたくない」という顧客もあるだろうが、「ITの議論だけではなく、ビジネスの変革を考えよう」という主張自体は正しい。しかし最大の問題は、「いったいだれが即応性のあるビジネスモデルを考えるのか」ということだ。

 大歳社長は講演で、「企業が顧客やサプライヤとやり取りする様々な情報を可視化し共有することで、スピードが早くなる」と述べた。それには、部品調達から生産、販売、顧客サポートに至る企業の価値連鎖全体を見わたして、業務プロセスを再設計し、共有すべき情報を定義する必要がある。

 その仕事を担う人物は、変革を担う気概と事業を創造するというプロデューサの資質、そして業務全般の知識、改革手法やITの基本知識を兼ね備えていることが望ましい。つまり、「ビジネスとテクノロジが分かる人材」という長年の問題に帰着する。