ファイザー製薬は,事業環境の変化に即応できるよう,ネットワークを業務ごとに4系統に分けている。製薬業界トップを維持すべく,3月にはリング状の国際ネットワークを稼働。現在は,要となるMR支援ネットワークを更新中だ。(山根 小雪)
「事業環境の激変に即応できるネットワークが必要」――(安藤祐一郎コーポレート・インフォメーション・テクノロジー部長:写真)。医薬品売上高世界一のファイザー製薬を支えるネットワークは,この理念に貫かれている。
背景には,製薬業界の激しい競争がある。一つが買収・合併(M&A)。新薬開発には巨額の費用と長い期間がかかるため,新薬を開発したメーカーを巡って大手によるM&Aが相次いでいる。また,法改正で新薬の臨床データの国際的な相互利用が可能になり,従来より短期間で新薬が市場に出回り,競争は激化する一方だ。
こうした変化は,組織変更,人員増,新規アプリケーションの追加といった形で,ITインフラに対応を迫る。「ネットワークはあくまでインフラ。ビジネスに直結したアプリケーションが稼働しなければ意味がない」(安藤部長)。だからこそ,実際に事業環境が変化したときに,ボトルネックにならずに即応できるネットワークを構築しておかなければならないのである。
業務見合いでサービス選び経費圧縮
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コーポレート・
インフォメーション・
テクノロジー部長
安藤 祐一郎氏
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ファイザー製薬の国内ネットワークは,業務別の3系統に分かれる(図)。(1)本社機能の拠点を収容したネットワーク(本社機能ネットワーク),(2)コンシューマ向け製品を扱う事業部を収容したネットワーク(コンシューマ事業ネットワーク),(3)医薬を扱う事業部の拠点を収容するネットワーク(医薬ネットワーク)――である。
また2002年3月には,日本,米国,英国にある中央研究所や主要拠点を結ぶ国際ネットワークを構築した。
業務別にネットワークを分けるのは,各ネットワークによって,トラフィック量や拠点の地理的条件,予算などが全く異なるからである。このため,各ネットワークで利用する通信サービスもバラバラだ。
本社機能ネットワークには基幹業務システムやグループウエアなどが乗り,医薬ネットワークでは化合物や症例のデータベースをはじめとする多くのアプリケーションが稼働している。このため,トラフィックが多い。両ネットワークに収容する拠点では,営業所を除き,VoIPによる内線電話も利用しており,拠点間通信もある。
こうした理由から,両ネットワークについては広域イーサネットを採用した。しかし,通信事業者は異なる。
本社機能ネットワークにはパワードコムの「Powered Ethernet」を採用。医薬ネットワークは,日本テレコムのフレーム・リレーから同社の広域イーサネット・サービス「Wide-Ether」へ移行中である。
新宿の本社をはじめ,本社機能ネットワークの拠点は東京都内に集中。都市部を中心に安価なサービスを提供するパワードコムを採用するのが,最もコストを抑えて広帯域のネットワークを実現できると判断した。
一方,医薬ネットワークは,全国各地にある営業拠点を収容する必要がある。パワードコムよりもサービス提供地域が広い日本テレコムを採用した。
また,コンシューマ事業ネットワークは日本テレコムのフレーム・リレー・サービス「LASER EXPRESS FRi」を利用。医薬事業とは営業体制が異なり,トラフィックの大きいアプリケーションもない。現在の128kビット/秒のアクセス回線でも十分なため,「当面,変更の予定はない」(安藤部長)。
中核は中央研究所とデータ・センター
各ネットワークは,サーバー類を設置したデータ・センターか,中央研究所と工場のある愛知県知多郡武豊町の拠点のいずれかに高速回線で接続する。本社機能ネットワークはデータ・センターと100Mビット/秒のイーサネット専用線で,コンシューマ事業ネットワークは武豊町と1.5Mビット/秒のディジタルアクセス(DA)で接続している。
医薬ネットワークは,これまでNTT東日本と東京通信ネットワークの9Mビット/秒のATM専用線2本でデータ・センターと接続。フレーム・リレー網を介して,1.5Mビット/秒で14支店を,その配下に128k~512kビット/秒の速度でDAなどを使い70営業所を接続する階層型構成だった。
現在,このネットワーク構成を見直し,広域イーサネットで刷新中である。14支店のうち,10支店は9月末に移行済み。2003年早々には全拠点を広域イーサネット網に移行する予定である。現状では,フレーム・リレー網と広域イーサネット網が併存しており,広域イーサネット網は10Mビット/秒のATM専用線でデータ・センターと接続してある。
国際ネットワークは,データ・センターおよび武豊町と10Mビット/秒のATM専用線でつないだ。
要の営業支援用に強いネットを構築
ファイザー製薬は,医療用医薬品の売り上げが全体の93.5%を占める。おのずとMRの営業支援がネットワーク強化の中心となる。しかも,MRの機動力をいかに向上させるかに終わりはない。このため,医薬ネットワークに乗るアプリケーションの拡充は著しく,それに耐える“強い”ネットワークが必要だ。
広域イーサネットへ移行するのも,トラフィックが2001年末から増加し続けているからである。要因は,(1)MRを1500人から2400人に増員,(2)PDA(携帯情報端末)配布によるモバイル環境の拡充,(3)MRを「マルチチーム制」にすることでナレッジ・マネジメントが不可欠になった――の3点。
MRは一日のほとんどを担当する病院の訪問に費やす。社外からノート・パソコンやPDAとPHSカードを利用して,化合物や症例のデータベースなど多くのアプリケーションを利用する。モバイル環境の整備でMRの機動力は格段に向上した。
また,従来の「一人のMRが病院ごとに担当する体制」から,複数のMRが各々の専門分野ごとに一つの病院を担当する「マルチチーム制」を敷いた。このため,医師の訪問前に他MRの営業実績を確認する必要がある。当然,営業日報も電子化する必要があった。
これらのMRが利用するアプリケーションは自社で作っている。「MRのアプリケーション活用頻度は高まり続けている。この4~5カ月でリモート・アクセスだけで20~30%もトラフィックが増加した」(コーポレート・インフォメーション・テクノロジー部エンジニアリングソリューション課の一色菜保氏)。
そのため,広域イーサネットで容量と拡張性を確保。変化に即応できるネットワークを目指している。
図 ファイザー製薬のネットワーク構成
業務ごとに4系統のネットワークに分け,コストを最適化した。(1)本社機能ネットワーク,(2)医薬ネットワーク,(3)コンシューマ事業ネットワーク,(4)国際ネットワーク――がある。現在(2)の医薬ネットを更新中。国内ネットのインテグレーションはNTTデータが担当。
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