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【当初の計画】
現在の評価
十分な帯域を確保する

レスポンスは逆に悪化
回線コスト半減に

アクセス回線刷新で運用コスト増
IP-VPN2重化で障害対策

一度あった一大事もクリアー

佐川急便はIP-VPNを採用した初期ユーザー。約350拠点に一挙に導入した。大幅な回線コスト削減を実現したものの,社内業務のトラフィック増でアクセス回線の見直しを余儀なくされた。IP-VPNの安定性は高く評価している。

(市嶋 洋平)

 物流大手の佐川急便は,2001年10月に約350拠点へのIP-VPN導入を完了した。日本テレコムの「Solteria」を社内ネット全域に採用した企業の1社である。

 IP-VPN導入前は,ATM専用線やディジタル専用線を使った階層型のネットワークを運用していた。このネットワークは2000年に導入したばかり。IP-VPNへと全面的にくら替えした狙いは,ネットワークの運用コストを大幅に減らすことだった。佐川急便IT戦略本部ITシステム部ネットワークソリューション課の吉岡賢宏課長は,「コストを抑えるために1日でも早くIP-VPNに乗り換えたかった」と当時を振り返る。

IP-VPNが安定との情報キャッチ

 佐川急便は「IP-VPN」と「広域イーサネット」の新型WAN(wide area network)サービスに絞って,乗り換える先を見極めた。この際に最重視したのが安定性である。ただ,検討を始めた2000年当時はIP-VPNと広域イーサネットのユーザーはほとんどいなかった。そこで,付き合いのあるインテグレータやセミナー,雑誌などを通じできる限りの情報を集めた。そして「IP-VPNの方が広域イーサネットよりも導入事例が多く,網が安定している」と結論付けた。

 それから2年が経過。佐川急便の新ネットワークを,(1)アプリケーションのレスポンス,(2)運用コスト,(3)安定性――の三つのポイントで評価する。

レスポンス「5秒以内」が条件

 まずはアプリケーションのレスポンス。導入当初に掲げたレスポンスの要求値を満たせなくなる可能性が分かってきた。2002年のことである。

 佐川急便が最重要と位置付けているアプリケーションは,荷物の所在を検索する「貨物追跡システム」だ。

 同社が1日に運ぶ荷物は実に500万個。ここ3年で約100万個も増えた。貨物追跡システムは,一つひとつの荷物がどういう状態にあるのかを逐次把握している。配送の受け付け/配達時や配送センターに荷物が集まったときなどに,同システムは荷札に印刷してあるバーコードを読み取り,京都の佐川コンピューター・システムにIP-VPN経由で送る。

 例えば,顧客から荷物に関する電話問い合わせがあったとき,営業店の社員は貨物追跡システムを使って,荷物の現在地や配達中なのかなどの状態を検索する。迅速に回答できるように,検索時のレスポンスの条件は「5秒以内」。このシステムは,顧客がインターネットから荷物の配達状況を検索する際にも使われる。

 また各支社にすべての伝票を集め,夜中のうちに顧客のサインや判子をスキャンし,画像データとして佐川コンピューター・システムにあるサーバーに蓄積。1日500万個のすべての荷物が対象だ。企業など社員数の多い配達先では荷物が届いただけでなく,「誰が受け取ったのか」までを把握する必要があるからだ。

 佐川急便にとってIP-VPNは,これらの仕組みを支える重要なインフラである。帯域管理装置を導入して,貨物追跡システムのパケットを優先的に伝送する。2002年までは,5秒以内のレスポンスを確保できていた。「5秒どころか3秒程度で検索できていた」(吉岡課長)と言う。

増大の一途をたどる社内システム

 ところが最近になって,そのレスポンスが悪化する恐れが出てきた。

 2002年にアプリケーションの開発をキャラクタ・ベースからWebベースにシフトしたのが発端だ。「専用クライアント・ソフトをユーザーに配布する手間が省ける。ユーザーにとってもWebブラウザをクライアントに利用できるので使いやすい」(ネットワークソリューション課の吉谷紀行係長)。ただその結果,佐川急便のネットワークに予想外の影響をもたらしたのだ。

 Webベースのアプリケーションは現時点で,顧客情報の管理や経理業務,トラックを運行している路線の管理などおよそ10にも上る。これらアプリケーションが次々と稼働した結果,Webサーバーを集中的に置いている佐川コンピューター・システムから支社や営業店のユーザー側にダウンロードするWebアクセスのトラフィックが急増し始めた。

 このほか2001年9月に社内ネットに導入したグループウエア・サーバーの「ノーツ」のトラフィックも加わった。6000人ものユーザーがメールや掲示板,スケジュール管理に活用中だ。「特にメールで表計算や画像など大容量の添付ファイルをやり取りするようになったのが響いてきた」(吉岡課長)と言う。

 これらのトラフィック増は,IP-VPNの導入当初にある程度想定していたが,「2002年に入ると社内システムのトラフィックが予想を超える勢いで増えていった」(吉谷係長)。そして,IP-VPNのアクセス回線の帯域を圧迫し始めた。Webベースのアプリケーションやノーツのレスポンスは悪くなり,最重要である貨物追跡システムのレスポンス「5秒」も脅かされ始めた。

 第一の評価ポイント「システムのレスポンス」は練り直しが必要となった。

営業店を0.5メガに増速へ

 貨物追跡システムのレスポンスを死守し,各種アプリケーションを快適に使うため,佐川急便は二つの対策を打ち出した。

 一つめの対策が回線の増速である。IP-VPNのアクセス回線の速度を上げることにした。

 これまで約350の営業店は,64k~512kビット/秒のディジタルアクセスを引いていた。これを東西NTT地域会社のメガデータネッツの0.5Mビット/秒品目に引き上げた(図)。アクセス回線のメガデータネッツ化は2003年3月から開始。2004年3月に終了する見込みである。

 ただし,伝送速度が6Mビット/秒以上のATMメガリンクを引き込んでいる4支社と一つの電算センターは現状のまま運用する。ATMメガリンクからメガデータネッツに変更すれば,回線コストの削減が期待できる。だが,「メガデータネッツの場合,帯域を保証する品目は5Mビット/秒。今のところ,帯域が保証できない回線を使うつもりはない」(吉谷係長)。「回線が切れることにはバックアップ回線で保険をかけることができる。しかし帯域には“保険”をかけられない。ベストエフォートのサービスが悪化したら,その帯域は我慢するしかない」(吉岡課長)といった理由からだ。

 同様の理由で,FTTH(fiber to the home)やADSL(asymmetric digital subscriber line)などのアクセス回線も選択肢から外している。帯域を保証しないからだ。

 2M~5Mビット/秒のATMメガリンクを引いている5支社と電算センター2拠点に関しては,同じ2M~5Mビット/秒の速度のメガデータネッツにそれぞれ更新した。

図 IP-VPNに対する現在の評価とアクセス回線更新後の評価予想 アクセス回線の更新は2003年3月から2004年3月まで段階的に実施する。


※本記事は日経コミュニケーション2003年11月24日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。