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【当初の計画】
現在の評価
キャリア2重化で障害に備える

障害は2回だけで安定稼働
アクセス回線にPHS接続を採用

帯域に不満でFOMAを評価中
ADSLをバックアップに導入

動画配信に兼用して有効活用

 アサヒビールは,2000年11月にIP-VPNの利用を開始した初期ユーザーの1社。障害に備えて二つのキャリアのIP-VPNを導入した。しかし,IP-VPNは予想以上に安定稼働。今では予備回線を動画配信用の回線に兼用している。

(武部 健一)

 アサヒビールは2000年11月,日本テレコムのIP-VPNサービス「Solteria」を導入した。2001年の6月からはNTTコミュニケーションズのIP-VPNサービス「Arcstar IP-VPN」も追加導入。二つのIP-VPNでWANを2重化している。

 アサヒビールがIP-VPNで新しいWAN構築に乗り出したのは,同社がM&A(合併・買収)戦略やグループ経営戦略を打ち出したことで,今後拠点の統廃合が頻繁に起こると考えたため。実際,2002年には協和発酵工業の酒類事業を買収,同事業の拠点をWANに統合した。ATMとフレーム・リレーを使って構築した従来の階層型ネットワークでは,拠点統廃合への対応が困難だった。

 トラフィックの増大もIP-VPN採用の一因だ。99年ころからナレッジ・マネジメントへの取り組みが本格化し,パワーポイントなどサイズの大きなファイルが頻繁にネットワークを飛び交うと予測。それまでのネットワークは,幹線が1M~16Mビット/秒で,支線は64k~384kビット/秒しかなかった。帯域不足に陥ることは必至の状況である。

 また同じころ,社内のパソコンやサーバーのOSをWindows 95と同NT3.51からWindows 2000にバージョンアップするプロジェクトも進行していた。Windows 2000のディレクトリ・サービス「Active Directory」を使う予定もあった。Active Directoryを導入するとディレクトリ情報のやり取りで,さらにトラフィックは増える。Windows 2000へのバージョンアップに合わせてネットワークの帯域増強も欠かせないと考えた。

 そのような中でSolteriaを知る。Solteriaには既に早期導入ユーザーでの実績があり信頼できた。試算すると,運用コストを増やさずに各拠点で1.5Mビット/秒以上の帯域を確保できると判明,小規模拠点から導入を開始した。数カ月後,大規模拠点のWANをIP-VPNで刷新するに当たり,Arcstar IP-VPNを導入した。すべての拠点をSolteriaで接続するより,二つの通信事業者(キャリア)のサービスを併用する方が,信頼性が高まると判断した。

 現在,アサヒビールがIP-VPNの利用を始めてから約3年が経過した。同社はこのネットワークを以下の三つのポイントで評価。(1)IP-VPNのWANは安定している,(2)モバイル接続環境に関してはアクセス回線を増速する必要を感じている,(3)バックアップ用回線を平常時にも有効活用している――である。

IP-VPNのトラブルは2回だけ

 第1のポイントはIP-VPNの安定性。導入時に予想した以上に安定していた。現在,アサヒビール本社と,「SAP R/3」や自社開発の社内アプリケーション・サーバーを収容する「コンピューターセンター」,研究所,工場(9拠点)など主要な38拠点はArcstar IP-VPNをメインに,Solteriaをバックアップとして使う()。

 これまでの2年半の間でArcstar IP-VPNに障害が起こり,Solteriaへ切り替わったのは2回だけ。しかも障害は数十分程度の短い時間だった。障害対策のために二つのキャリアのサービスを使ってWANの2重化を図ったわけだが,「結果的には二つのキャリアを使う必要はなかった,との見方もできる」(アサヒビールの尾関博管理本部IT部主任)。

 小規模の営業所やグループ会社,商品の配送センターなど計154拠点はSolteriaをメインとして使う。これらの拠点はバックアップのWANを持たない。Solteriaについても「導入当初こそ1~2回の障害が起こったが,以降は安定稼働している」(アサヒビールの子会社であるアサヒビジネスソリューションズでアサヒビール・グループのネットワーク運営を担当する川合康久氏)と,その安定性に合格点を与える。

 ただ,ネットワーク機器の不具合によるアクセス回線の障害は時々あった。例えば,雷が原因でDSUの保護回路が作動し,不通になるといった回線障害だ。しかし,「以前のATMとフレーム・リレーのネットワークのころよりは,機器の障害の回数はずっと減った。以前のネットワークではATM交換機が多い時には月1回くらいの頻度で障害を起こし,苦労した」(川合氏)。

 珍しい事故もあった。道路工事で誤って通信ケーブルが切られたり,大型車が電柱にぶつかる交通事故が発生したため,アクセス回線が不通になるトラブルに見舞われたこともある。

 IP-VPNのWANはネットワークが階層型ではなく各拠点がフラットにつながる“水平型”。この点が運用面の負荷軽減に寄与している。

 大規模拠点の下に接続する66カ所の小規模拠点(配送センターなど)以外は,すべてIP-VPNに直結する。アクセス回線に障害が起こっても,主要な拠点に関してはその1カ所しか影響を受けず,障害の切り分け,障害対応ともに容易となった。

図 アサヒビールとグループ会社のIP-VPNを中心としたネットワーク 二つのIP-VPNサービスを使い信頼性を高める。


※本記事は日経コミュニケーション2003年12月22日号からの抜粋です。 そのため本文は冒頭の部分のみ,図や表は一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。