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 野村総合研究所(NRI)は1月26日,携帯電話市場の継続的で飛躍的な発展のために,競争構造を見直すべきだという提言を発表した。同社が毎月発行する報告書「NRI Consulting NEWS」の最新号の中で,北俊一・上級コンサルタントが指摘している。

 「いまのままでは,携帯電話事業者もメーカーも販売代理店も破たんしかねない。少しずつお湯が熱くなっているのに気付かないでいるカエルが,結局“ゆでガエル”となって死んでしまう話を想起させる状況にある」

 北氏の提言は,「販売インセンティブ廃止は携帯電話業界の福音となるか」と題するもの。事業者が1台当たり3万円強~4万円弱も支払っている電話機の販売支援金(インセンティブ)をなくしていくことが,業界の発展に欠かせないのではないかと問いかける。さもなくば,業界の成長はおろか,存続さえおぼつかないという。

 日本では,高機能な携帯電話機が1万円台後半~3万円程度で購入できる。しかし,メーカーからの卸売り価格は5万円前後。事業者が販売代理店に与えるインセンティブのおかげで,ユーザーの購入価格がぐっと下がっているのだ。この構造が,携帯電話機の買い替え需要を喚起し,日本の携帯電話機を世界最高水準に発展させたのは間違いない。

 ところが,「今や携帯電話機販売の8~9割は買い替え。1ユーザー当たり月間利用額も下がり続けている」(北氏)。買い替え比率の上昇と平均利用額の減少は今後も続く可能性が高いため,インセンティブをなくさなければ業界は利益を上げられなくなる。

 携帯電話の普及率が低いうちは,新規ユーザーを大量に獲得することが容易だった。このため,電話機を破格値で販売しても数カ月使ってもらえれば回収できたのである。

 北氏は,インセンティブをなくすメリットもいくつか挙げている。「メーカーは,真の競争にさらされるため,競争力が高まる。国際市場に打って出る力もつく。また,新規ユーザーよりも既存ユーザーが料金面で優遇されやすくなる」。実際,韓国では2000年にインセンティブが禁止されて電話機の価格が急上昇し,一時的に販売台数が激減したが,現在は成長軌道に乗っている。また,端末メーカーのサムスンが国際市場で第3位に躍進した。
 
 「インセンティブ廃止が唯一の解ではないが,日本の携帯電話業界は将来どうあるべきかについて業界全体で“絵姿”を描くべきだ」(北氏)。NTTドコモかKDDI,あるいはボーダフォン。誰かが率先してインセンティブ削減に動けば,競争構造は変わり始める。その代わり,真っ先に動いた事業者のシェアは短期的に急下降しかねない。だから,「証券アナリストがこうした動きをプラスに評価して,株価で支えてやるべきだ」と北氏は指摘する。

 インセンティブ廃止は,事業者,メーカー,販売代理店,さらにユーザーにまで痛みを要求しかねない劇薬だ。携帯電話機やサービスの進化を阻みかねないため,競争構造の転換には別の手法も考えるべきである。それでも,構造転換に成功すれば,日本の携帯電話産業は国際競争力が高まり,雇用を創出できる可能性も高い。第3世代携帯電話サービス競争が本格化しつつある今,まずは業界全体で進むべき方向について議論を始めてみてはどうだろうか。

(杉山 泰一=日経コミュニケーション)