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 「IIJは何も変わっていないよ。私がいるからね」--。インターネット イニシアティブ(IIJ)の鈴木幸一代表取締役社長(写真)の発言には,長年独立系の通信事業者としてIIJグループを率いてきた自負が垣間見えた。冒頭の発言は,昨年9月にNTTグループ入りしたIIJの「今」に対する質問に答えたもの(取材日は6月1日)。ソフトバンクによる日本テレコム買収に対する影響を聞く中,IIJ自身の状況に話題が及んだときのことだ。「NTTもIIJを尊重してくれている」と,良好な関係にあることを強調した。

 しかしIIJはかつて,NTTの対抗軸の形成を目指し,電力系通信事業者のパワードコムと事業運営一体化を検討した経緯を持つ。今から思えばこの動きは,今回の業界再編の呼び水といえるだろう。ただ両社は2002年の7月に統合検討の事実を明らかにしたものの,紆余曲折を経て2003年3月に協議の打ち切りを発表した。

「CWCは重い十字架だった」

 IIJがパワードコムとの交渉に及んだ背景には,IIJが筆頭株主であったクロスウェイブ コミュニケーションズ(CWC)の経営不振があった。CWCは企業向けデータ通信専門の事業者として,99年10月に日本で初めて広域イーサネット・サービスを開始したパイオニア的存在だった。

 だが,企業向けデータ通信だけに特化していたCWCは,事業者間のサービス値下げ競争の影響をもろに受け,2002年10月~12月期に34億9400万円の赤字を計上した。この影響は,CWCに37.9%出資していたIIJにも及ぶ。2002年10月~12月期には5億9000万円の債務超過に陥った。

 そして2003年8月,CWCは約660億円の負債を抱え,東京地方裁判所に会社更生法の適用を申請した。その直後,本誌のインタビューにIIJの鈴木社長は「CWCは重い十字架だった」と無念さを吐露している。その後同年11月にCWCの大半の事業は,NTTコミュニケーションズが約100億円で営業譲渡の形で引き受けることとなった。

 IIJ自身もCWCの破たんを受け,NTTグループ入りした。IIJが要請していた第三者割当増資に対し2003年9月に,NTT(持ち株会社)とNTTコミュニケーションズが応じたからだ。NTTグループの出資比率は31.6%となり,IIJはNTTグループの連結対象会社になったのである。結果として,IIJは長年ライバル視してきたNTTグループの下で再出発を図ることになった。

「日本テレコムはそう変わらないと思うよ」

 CWCの経営破たんとそれに伴うIIJのNTTグループ入りが,通信業界に大きな衝撃を与えたのは事実。CWCの会社更生法申請の翌日に当たる2003年8月21日は,リップルウッドが日本テレコム買収を発表した。以来,日本国内の通信事業者は業界再編の嵐の中にあるといってもよいだろう。

 その日本テレコムが,約半年でリップルウッドからソフトバンクに買収されたことに,鈴木社長は首をかしげる。「6カ月ごとに基幹インフラを支える通信事業者の株主が変わるなんて聞いたことがない。通信インフラを支える企業は長い期間経営の継続性が必要なんだ」と指摘。インフラを持つ企業が,普通の企業と同じレベルで売り買いされる状況に疑問を呈した。

 その一方で業界に対しての影響は「そう大きくは変わらない」(鈴木社長)と言う。ソフトバンクの日本テレコムの買収に対しても,「競争相手としてはよく分からない」と素っ気ない。「日本テレコムとは長い間,仲良くやってきた。経営母体が変わるうち,昔いた人はずいぶん変わった。そういう意味では,ソフトバンクと組んでも日本テレコムはあまり変わらないのかもしれない」というわけだ。さらに「孫さんがやりたいのは,実はモバイルでは」と推測する。

 鈴木社長は業界再編のキャスティング・ボートを握るのは,FTTH(fiber to the home)事業者にあると読む。「企業ユーザーはADSL(asymmetric digital subscriber line)を選択しなくなってきた。今はFTTHに移行する過渡期だ。ケイ・オプティコムなどFTTHサービスを提供している地域系通信事業者と連携する事業者が現れると変わってくるだろう」と指摘した。

(山根 小雪=日経コミュニケーション編集)