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 「海外でボーダフォン・グループが躍進した大きな理由は,各国の法人向け携帯電話市場で成功したこと。日本でも今後,意識的に法人市場を攻める」--。ボーダフォンのマイク・べナー業務執行役員法人営業統括部長はニヤリと笑う(写真上)。

 NTTドコモやKDDIに比べ,携帯電話の月間純増数で低迷を続けるボーダフォン。“背水の陣”で挑む法人市場開拓の切り札は,「ボーダフォン モバイル オフィス」と呼ぶサービスだ。専用の料金プランを契約することで,グループ登録した携帯電話同士の通話が定額でかけ放題になる。

サービス開始後も積極販売できない“真相”

 しかし,モバイル オフィスの販売活動は極めて静かにスタートした。サービス開始は7月1日だが,それが公にされたのは1週間後の7月8日。記者会見やニュースリリースの発表ではなく,ボーダフォンのWebサイトにモバイル オフィスの情報がひっそり掲載されただけである。

 KDDIは「OFFICE WISE」のサービス開始を11月に予定しているが,6月に早々と記者発表するほどの力の入れよう。NTTドコモは,無線LAN対応FOMAの出荷が9月ころにもかかわらず,大阪ガスから約1万2000台という大規模受注を獲得したことを発表した。このライバル2社に比べてボーダフォンのモバイル・セントレックスは,あまりにも地味なスタートとなった。大手3社の先陣を切ってサービスを始めているにもかかわらずだ。

 本誌の取材によると,当初ボーダフォンがモバイル オフィスのサービス開始の発表を予定していたのは6月23日だった。しかし,その日は「ダリル・グリーン社長(当時)の突然の辞任」という,まったく別の大ニュースが発表された。社長交代がサービス発表に影響を及ぼした可能性がある。

 さらにボーダフォンが“控えめな”販売活動を進める理由は二つ推測できる。まずはサービス提供形態。モバイル オフィスは専用基地局の導入が要らないという手軽さの半面,同じビル内の携帯電話同士の通話でもすべて通常の基地局にトラフィックが流れる仕組みである。ユーザーが同一の基地局のエリアに一気に増えすぎると,網側の設備の増設が追いつかない可能性がある。

 次に,社内の販売体制がまだ十分に整っていない可能性である。ボーダフォンは5月末に,全社員の約18%に当たる600人もの人員削減策を発表。法人営業を強化する意向は示しているものの,「営業担当の人員拡充計画はまだ言えない」(ボーダフォン)と口を濁す。営業担当者が足りないとサービスの販売活動だけでなく,既存ユーザーへの対応にも支障を来たす場合がある。

導入の手軽さでドコモ,KDDIと差異化

 その一方,モバイル オフィスは中小企業でも手軽に導入できるという特徴を備えている。べナー業務執行役員も「ドコモやKDDIとは,まったく考え方が違う」とこの特徴を強調する。大企業でも,まず少数のユーザーで試験導入し,様子を見ながら段階的に台数を増やせるなどリスクを抑えられるというメリットがある。

 具体的には,ボーダフォンの市販の第3世代携帯電話端末がすべて使えるところ(写真下)。現時点では写真の「V801SH」をはじめとする3機種がある。NTTドコモのモバイル・セントレックスは,無線LANに対応した専用端末が必要となる。写真下 ボーダフォンのV801SH

 さらに最低契約回線数が20回線と少ない。KDDIが現時点で発表済みのモバイル・セントレックスでは,契約回線数が1000回線以上と,大規模なオフィスに限られている。

 しかも初期工事費が不要で,システム導入までの期間が最短で10日と短い。NTTドコモの場合は,無線LAN環境の構築が別途必要。KDDIの場合は専用基地局をユーザー拠点に導入する必要がある。規模にもよるが,数千万円規模の初期工事費がかかる。

 将来はボーダフォン・グループのVPN(仮想閉域網)を相互接続し,グローバルにモバイル オフィスを利用できるようにする計画もある。海外での実績を生かしたグローバル戦略を押し進め,日本の法人市場におけるボーダフォンの存在感を際立たせようともくろむ。「世界中で同じ携帯電話を使うことを考える企業なら,あえてNTTドコモやKDDIの携帯電話を採用しないだろう」(べナー業務執行役員)。

 「法人向けのサービスは日本国内よりも海外の方が進んでいる。海外展開に強みを持つボーダフォン・グループのノウハウを生かしたい」(べナー業務執行役員)。サービスの仕様を見る限り,モバイル オフィスがユーザーにとって魅力的なサービスであることは確かだ。NTTドコモやKDDIといったライバルのサービスが本格稼働する前に,ボーダフォンが磐石の販売体制を確立できるかどうかが,日本市場での巻き返しの成否を握っている。

(宗像 誠之=日経コミュニケーション

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