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 「まだ企業の名前は明かせないが,数百台規模で端末を導入したユーザーがいる」(日立電線)。「この半年間で端末を検討する案件は100近くもあった」(沖電気工業)--。携帯電話で内線電話を利用できるようにする「モバイル・セントレックス」のサービスが始まる中,既に企業で導入が始まったモバイル端末がある。

 それが「携帯型IP電話機」。「VoIP携帯電話機」などと呼ばれることもある。モバイル・セントレックス端末として話題を呼んでいるNTTドコモの無線LAN内蔵FOMA端末「N900iL」とは異なり,携帯電話の電波を使って通話する機能を備えていない。ただし無線LAN技術とVoIP(voice over IP)技術を実装することで,社内なら持ち運びが可能。無線型のIP電話機として移動しながらでも通話ができる。冒頭の2社以外にも,シスコシステムズやネットツーコムといった複数のメーカーが,企業向けIP電話端末として出荷している。

石川島播磨重工業が1000台の大規模導入

 そして1000台を超える携帯型IP電話機の導入を具体化した大手企業が現れた。それが石川島播磨重工業。同社は広島県呉地区と東京都西多摩郡にある瑞穂工場に端末を導入する。社内での利用開始は2005年3月を予定。端末はシスコシステムズ製の「Wireless IP Phone」を採用した。

 他のメーカーもこの動きに乗り遅れまいと必死だ。携帯型IP電話機「WIP-5000」を4月に発売したばかりの日立電線は,「生産が追い付かないほど」と好調さをアピール。9月末の発売に向けて製品を開発している沖電気は,「IP電話と業務アプリケーションが連携したシステムを構築する企業の半数から,携帯型IP電話機に引き合いがあった」(原口哲朗IPソリューションカンパニー企業ネットワークビジネスユニット長)と証言する。沖電気はユーザー・ニーズの高まりを感じ取って,開発を急ピッチで進めている。

 携帯型IP電話機は,多くの企業に浸透しているアクセス・ポイント(AP)などの無線LANインフラをそのまま使えること,固定型のIP電話機と併せてIP電話システムに収容できること,CRMシステムなどのアプリケーションとの連携が容易なことなどから,その需要が急速に高まっている。さらに,「携帯電話は社員個人が持っているので,内線通話用に携帯型IP電話機を配りたいという会社は多い。NTTドコモのFOMAと無線LANのデュアル端末は魅力的だと思うが,すべてのニーズをカバーできるわけではないだろう」(原口ビジネスユニット長)という声もある。

優先制御「802.11e」対応で普及に拍車

 高まる需要を背景に,製品自体も高性能化してきた。沖電気が開発中の製品(写真上)は,「100時間以上の連続待ち受け時間を実現する予定だ。チューニングを施した特定のAPを使えば,さらなる長時間化も可能だ」(古家則保IPソリューションカンパニー企業NWソリューション開発第一部担当部長)。

 従来の携帯型IP電話機は連続待ち受け時間が20数時間~50数時間程度で「業務で使うには短い」との指摘を受けていた。企業が導入する上での大きな懸案をクリアすることで,一気に浸透を図る考えだ。

 写真下 ハンズリック・マネージング・ディレクターさらに,携帯型IP電話機の企業への展開を技術面で後押しする動きもある。無線LANで優先制御を実現する「QoS」(quality of service)仕様「IEEE 802.11e」の標準化が,この秋に固まるのだ。無線LAN対応製品の相互接続性テストなどを実施するWi-Fiアライアンスのフランク・ハンズリック・マネージング・ディレクター(写真下)は「無線LANの優先制御機能によって,携帯型IP電話機が一気に企業に普及するだろう」と予測する。

 今後,携帯型IP電話機を企業の内線端末として利用するには,内線番号だけではなく外線との発着信が可能な「050」番号(「050-xxxx-xxxx」といったIP電話用に割り当てられた電話番号)を取得するニーズが高まる。050番号を取得するには音声の遅延が少ないなど,高い通話品質が求められている。ところが有線のLANよりも通信が不安定な無線LANでは,高い通話品質を安定的に確保することが困難である。

 IEEE 802.11e仕様に基づいた優先制御機能が重要視されているのはこうした理由からだ。無線区間で音声パケットを優先制御することで通話品質を高められれば,携帯型IP電話機でも050番号を取得できる可能性が高まる。しかも標準規格であるIEEE 802.11eに対応していれば,異なるメーカーの端末とAP間でも優先制御が行える。050番号を取得するまでにはほかにも課題はあるが,最大の懸念である無線区間の通話品質確保はクリアできる道が見えてきた。

(武部 健一=日経コミュニケーション

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