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 「大阪ガスが無線LAN/FOMA端末を含むIP電話システムを1万2000台導入,年間4.5億円削減へ」――。7月15日の午後,衝撃的なニュースが駆けめぐった。2日前の7月13日にNTTドコモが発表したばかりの無線LAN/FOMA端末の導入を,早くも決めた大規模なユーザーが現れたのだ。2002年の「東ガス・ショック」になぞらえて,「大ガス・ショック」と呼ぶ人も現れた。

 衝撃なニュースと裏腹に,今回の導入プロジェクトを推進する大阪ガス情報通信部インフラ基盤チームの高畑彰司副課長(写真左上),伊津野貴彦氏(写真右上)は,実に冷静に導入に向けた意気込みを語る。その口調には,前例のないプロジェクトを進める静かなる自信があった。

ユビキタスなオフィス環境の構築を目指す

 「当社が進めるユビキタスなオフィス構想にぴったりだった」――。高畑副課長は,FOMA/無線LAN端末の導入を決めた理由をこう語る。大阪ガスは,以前より業務の効率化とコスト削減のため,どこにいても仕事ができるようなオフィスの形を模索していた。

 場所にとらわれない業務スタイルを検証するために,2003年4月には情報通信部など数十人を対象に実験的にオフィス環境をフリーアドレス化(写真下)。社員はオフィス内の自由な席に座り,無線LANカードを装着したノート・パソコンと,試験的に導入した固定型IP電話機で業務を行う。この取り組みの中で「固定型の電話機は,結局我々の目指すスタイルには向かない」という印象を持ったという。写真下 大阪ガスのオフィス

 コスト面では,全社的なIP電話の導入も継続的に検討していた。PBXの老朽化が進み,システム入れ替えのタイミングが近づいていた。しかし,様々なシステムによる費用のシミュレーションを行ったものの「コストが劇的に下がることもなかった」(高畑副課長)といい,なかなかシステム移行の決定的な形が見つからなかった。

 そして2003年末,NTTドコモが携帯電話をそのまま企業の内線電話として利用できる「モバイル・セントレックス」を予定していることを知る。オフィス内では無線LANを利用して通話ができ,オフィス外では普通の携帯電話として利用できるサービスだ。高畑副課長は「まさにこの形では」と感じたという。確かにこの形態は,様々な面で大阪ガスにとってメリットがあった。

 大阪ガスは約5000台の携帯電話を,営業担当者を中心に支給していた。この部分のコストで内線電話を用意できるため,オフィス内の固定電話のために2重投資するムダが省ける。人事異動があるたびに発生していた電話の工事費やPBXの設定費用も必要なくなる。

 さらに携帯電話の通信費の削減効果も見込めた。これまで同社は携帯電話の通信費として毎月約3000万円もの金額を支払っていたという。「社内にいるのに内線電話を使わず携帯電話で通話しているケースもあった。運用面でムダがあったのも事実」(高畑副課長)。今回導入するシステムでは,携帯電話の番号で発信した時も,内線エリアにいる場合は内線として扱う仕組みを取り入れる。さらに,社員以外の携帯電話へ発信する場合も,社内にいる際にはPBXを経由する形で固定発携帯の経路を通るように自動的に振り替える。

導入端末などの機種はこれから決める

 大阪ガスの導入プロジェクトはまだ始まったばかり。具体的なスケジュールやシステム構成など多くの部分が未確定だ。決まっているスケジュールは,(1)NTTドコモの端末が登場する秋に試験的に導入。無線LAN経由の音質や,利用者の状態を通知できるプレゼンス機能などを検証,(2)2005年5月に情報通信部門の約30人を対象に導入を開始,(3)2年後の2006年度までにシステム移行を完了――といったところ。

 実は,導入する無線LAN/FOMA端末の機種も台数もまだ決めていない。「来年5月に利用可能な端末であれば良い。発表済みのN900iL以外のこれから登場するだろう端末も検討する」(伊津野氏)。SIP(session initiation protocol)サーバーなどの選定も現在進行中だ。「10社ほどに声をかけ,来月には機種を決める。それによって拠点内のネットワーク構成も変わる」(高畑副課長)。

最大の懸念は無線LAN部分の設計

 導入に関しては現時点で課題もある。同社が最も懸念しているのは,無線LAN部分の設計だ。オフィス内では最大11Mビット/秒のIEEE 802.11bを利用して音声通話することになる。十分な音質を確保できるのかは,やってみなければ分からない部分も大きい。この点に関しては「単位時間あたりの利用実態などを計測して,アンテナの設計だけで済むのか,抜本的に考えるべきなのかを見極めたい」(伊津野氏)という。

 このほか携帯電話を家などに忘れた場合,モバイル・セントレックスならではの問題も生じる。内線電話を受けられなくなり,業務に大きな支障をきたすからだ。これに関しては,パソコン上のソフトフォンを利用して,最低限電話を受けることなどを検討しているという。

 これから2年後の完全移行に向けて,大阪ガスの前例のない試みが始まったばかり。先駆者ならではの問題に直面するケースもあるはずだ。本誌では引き続き大阪ガスの動向を追っていく。

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