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写真上 NECが開発した「N900iL」

 モバイル・セントレックス――携帯電話を内線電話としても使う電話システムが注目を集めている。現在,携帯電話事業者3社が提供しているが,その方式はまったく異なる。

 NTTドコモの「PASSAGE DUPLE」は外線では携帯電話網を,内線の通信方式に無線LANを使う。このため,市販のFOMAやムーバ端末は使えず,VoIP(voice over IP)機能を備えた専用のFOMA/無線LANデュアル端末「N900iL」が必要となる(写真上)。KDDIの「OFFICE WISE」とボーダフォンの「Vodafone Mobile Office」は携帯電話ネットワークだけでサービスを提供する。このため,KDDIとボーダフォンの方式は既存の携帯電話がそのまま使える。

 3社のサービスで,現在ユーザー企業での導入が進んでいるのがNTTドコモの方式である。導入予定のユーザーも含めると,大阪ガス,神戸製鋼所,JFEシステムズ,イトーキ,MTI(日本郵船の子会社)などそうそうたる企業が名を連ねている(写真下)。

 「PASSAGE DUPLE」の構成要素は,(1)FOMA/無線LANデュアル端末,(2)無線LAN機器,(3)SIP(session initiation protocol)サーバーが基本。IP電話を使った内線システムに無線LANを加えたシステムと言える。内線では無線LANが不可欠になるため,NTTドコモ以外にも,ユニアデックスなどのシステム・インテグレータがN900iLを使ったシステムを構築している。

無線LANが音声品質とバッテリー時間の鍵を握る


写真下 N900iLを使うユーザー企業のオフィス
 N900iLは4月1日現在,唯一のFOMA/無線LANデュアル端末である。ほかに選択肢がないため,N900iLの調達状況がシステムの稼働時期を左右する。2004年春ころと言われた出荷が11月までずれこんだため,導入を待ちわびていたユーザーやシステム・インテグレータをやきもきさせたこともあった。

 その一方で,無線LANを音声通信に使うシステムの導入はまだ事例も少なく「かなりチャレンジングなこと」(ある通信事業者)。事業者にも無線LANを音声通信に使うノウハウが確立していない。さらに「無線LANの設定,チューニングが端末バッテリー持続時間や通話品質に直接影響する」(あるシステム・インテグレータ)。適切な無線LAN環境と組み合わせて初めて,実用的な内線電話システムとなるのだ。

 だが,ここで注意しなければならない点がある。「N900iLにはIEEE802.11b準拠だけではない独自拡張が入っている」(NECの依田康男UNIVERGEソリューション推進本部長)点だ。この独自拡張は,高速ハンドオーバーや音声パケットの優先制御,帯域制御,省電力などに無線による音声通信には不可欠の技術に関連する。NECはこの拡張仕様を公開する意向があるものの,現時点では公開していない。そのため,同じ独自拡張を使った組み合わせで調整ができるNEC製の無線LAN AP/スイッチ(米エアスペース,現シスコシステムズのOEM。ファームウエアはNEC製)以外の採用が進んでいなかったのが現状だった。

 その状況が変わってきたのが2月から3月にかけて。N900iLでの最適な無線LAN通信について,システム・インテグレータ各社が実機を用いて地道に検証してきた。無線LAN側の設定いかんでN900iLを実用できる目処が立ってきたのがこの時期だ。この無線LAN AP/スイッチの設置や設定のノウハウが各システム・インテグレータの腕の見せ所となっている。

 ほぼ同じころN900iLも大規模なファームウエアの更新を実施し,音質や信頼性の向上を図った。こうした背景もあって,システム・インテグレータやメーカーはN900iL対応モバイル・セントレックス導入パッケージを続々と市場に投入し始めている。それも大企業向けだけではなく,中小企業や部門・拠点での導入も対象に,端末台数10台程度から数100台程度までと幅広いパッケージがラインアップされた。今まさに無線LANを核としたモバイル・セントレックスの市場が立ち上がりつつある。

 さて,ようやく下地が整ったところで,実際に運用する上では内線電話としての機能そのものが使い勝手に大きくかかわる。この機能を決めるのがSIPサーバーだ。明日はシステム・インテグレータの自社導入事例から,内線電話機能に焦点を当てる。

(大谷 晃司=日経コミュニケーション

【緊急連載 モバイル・セントレックスの理想と現実】特集ページはこちらをご覧下さい。

【緊急連載 モバイル・セントレックスの理想と現実】記事一覧
(1)PASSAGE DUPLE唯一の端末「N900iL」が抱える“秘密”
(2)インテグレータがこぞって「N900iL」を自社で使う理由
(3)「モバイル・セントレックスの提案には食い付きが良い」
(4)“N900iLブーム”で見直し迫られる携帯端末メーカー
(5)「OFFICE WISE」に新方式?KDDIがドコモへの対抗策