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 KDDIは,6月29日に「モバイル版WiMAX『IEEE 802.16e』」の実験に成功した」と突如発表し,通信事業者など業界関係者を驚かせた。しかしこの実験は,「1年前から準備を進めていた」(KDDIの渡辺文夫au技術本部ワイヤレスブロードバンド開発部長)という綿密な計画に基づいている。実験内容や狙いなどを,渡辺開発部長に聞いた(写真)。なおIEEE 802.16eは現在標準化作業中。採用技術はほぼ決まりつつあるが,最終的な標準化は10月の予定だ。

――実験の内容と結果を教えて欲しい。

 実験場所は大阪府の中心部で,利用した周波数は2GHz帯。もうすぐ稼働予定の2GHz帯対応の携帯電話用アンテナに,IEEE 802.16eの基地局設備を取り付けて伝搬実験を実施した。今回利用したアンテナは,3セクタ指向性アンテナを3局。つまり9セクタのエリアで構成している。帯域幅は,1チャネル当たり10MHz幅で2チャネル分を利用する。

 今回の実験では,自動車にパソコンを乗せて移動しながら通信した。その結果,1Mビット/秒の動画ストリーミング再生3本とテレビ電話を同時に利用することに成功した。ただし,今は実験の初期段階。具体的な通信速度の数字を言える状況ではない。今後は異なる周波数チャネルへのハンドオーバーの検証や,通信速度を含めた詳細な性能検証などを進める。詳しい結果を公表できるのは,半年以上先になるだろう。

――なぜIEEE 802.16eに取り組んでいるのか。

 当社は「ウルトラ3G」と呼ぶ,様々なアクセス手段を統合するネットワーク構想を掲げている(関連記事)。その無線アクセスの一つとして,「PIMS」(Portable Internet Multimedia System)という新しい無線通信システム構想を検討している。今の携帯電話よりもずっとビット単価の安いデータ通信サービスだ。この構想を実現する手段としては,現在実証できる技術ではIEEE 802.16eが最も有力。そのためコストをかけて検証してもプラスになると判断した。

――WiMAXでは固定用途向けの「IEEE 802.16-2004」もあるが,これとの違いは何か。

 移動しながら利用した場合や,複数の基地局で面展開したときの周波数利用効率はIEEE 802.16eの方が良い。無線通信では,通信に利用する周波数の一部の電力が落ち込む現象が起こる。移動しながら利用すると,その電力が落ち込む部分が変わっていく。この影響を受けると,データが誤りやすくなり伝送効率が落ちる。

 そこでIEEE 802.16eでは,1チャネルの周波数をさらに細かく分割。ごく短い一定時間ごとに利用する周波数を変えることで,できる限り電力が落ち込んでいない周波数を使って効率よくデータを送る。これは「OFDMA」(orthogonal frequency division multiple access)という通信技術で実現している。

 OFDMAを利用するため,面展開時の周波数利用効率も良い。1チャネルだけで面展開することすら可能だ。具体的には,隣り合う基地局の電波が重なり合う地点では,1チャネル内の別の周波数を互いに利用するようにして干渉を回避できる。一方のIEEE 802.16-2004では,隣り合う基地局は異なる周波数チャネルを設定しなければならない。モバイル利用では,IEEE 802.16eの方が断然優位だと考えている。

(聞き手は白井 良=日経コミュニケーション