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写真1 台湾・経済部の施顔祥次長

 「無線LANアクセス・ポイント(AP)は点から面へ,面から台湾島全体へと広がる」――。6月14日に台北市内で開かれたシンポジウム「發現台灣城市新表情」で台湾・経済部(日本の経済産業部に相当)の施顔祥次長はこう宣言した(写真1)。

 実際,台湾ほど公衆無線LANへの取り組みに熱心なところはない。現在,25のすべての自治体で公衆無線LANのサービスや実験プロジェクトが進んでいる。しかも単に無線LANインフラを整えるだけではなく,各自治体が様々なテーマを掲げてプロジェクトを推進している。

 中でも注目を集めているのが,台北市と台湾南部の高雄県で進むプロジェクト。台北市では世界最大の公衆無線LANの面展開プロジェクト「網路新都」が始まっている。高雄県では野球場を無線LANで覆うプロジェクト「無線e撃棒」(e撃棒は北京語で「いちばん」と発音。日本語の「一番」からきている)が進行中だ。

AP1万台で台北市の90%をカバー

 台北市の網路新都は壮大な計画である。加ノーテルネットワークス製の「メッシュ型無線LANアクセス・ポイント」を約1万台設置し,無線LANの面展開を図る。このメッシュ型無線LANという新技術の採用によって,「技術的にはいろいろと難しい部分も多いが,運用コストを大幅に抑えられる」(台北市から委託を受けて網路新都の運営を担当する安源資訊の楊錫麟・華源事業群総経理)とする。

 メッシュ型無線LANはAP同士が通信し,バケツリレー方式で有線のバックボーン回線までデータを転送する技術。有線回線の数を減らせるのが最大のメリットで,無線LANの面展開技術として脚光を浴びてきている。ノーテル以外にも,米モトローラや米ストリックス・システムズ,米トロポス・ネットワークスといったメーカーが続々と登場している。日本でもNTTブロードバンドプラットフォームがトロポスの機器を使って神奈川県の産能大学で面展開を始める予定だ。


写真2 信号機に取り付けられたAP

 このメッシュ型無線LANを使い,網路新都は2006年末までに台北市の人口カバー率で90%を達成する計画。既に2005年7月時点で約4000台のAPを台北市内に設置済みで,「WIFLY」(www.wifly.com.tw)の名称でサービス提供を始めている。市内中心部やMRT(台北新交通システム)駅で無線LANサービスが利用可能だ。

 実際,台北市の中心部を歩いているとAPを簡単に発見できる。例えば台北市内にある世界最高層ビル「台北101」の周辺には,電灯や信号機に取り付けられたAPがいくつも見える(写真2)。

高雄県は無線LANと野球の連携を目指す

 高雄県の無線e撃棒もユニークだ。公衆無線LANを使い「ITと野球のコラボレーション」(高雄県の呉裕文・副県長)に取り組んでいる(写真3)。無線LANを使って何ができるかを検証するための実験的色彩も強いようだ。


写真3 高雄県の無線e撃棒

 台湾では野球が人気スポーツ。高雄県にも「La Newベアーズ」という球団がある。そのホーム・グラウンド「澄清湖棒球場」を無線LANでカバーし,観客へのサービスに使う。具体的には,観客が無線LAN経由で選手へのメッセージを送ると,そのメッセージが球場のスクリーンに映し出されるシステムや,無線LAN経由で球団の“グッズ”の販売情報を提供するサービスなどだ。呉副県長によると「すでにグッズの売り上げに良い影響が出ている」という。

応用サービスの創出が最大の課題

 様々な無線LANの試みが始まる台湾だが,最大の課題は「無線LANの上で利用者が便利かつ簡単に使え,お金を払って使いたくなるようなサービスを提供できるか」(経済部の施次長)である。

 現在,面展開した公衆無線LANのキラー・アプリケーションと目されているのがVoIP(voice over IP)を使うIP電話サービスだ。面展開の無線LANではエリア内のどこでも電波を受信できるので,着信が重要になるIP電話サービスを提供しやすい。

 しかも,台湾には無線IP電話機の種類が豊富。Advantage Century TelecommunicationやBCM COMMUNICATIONといったメーカーが製品を開発している。日本で使われている無線IP電話機の中には,これら台湾メーカーからのOEM(相手先ブランド製造)調達である場合もある。

 さらに,無線LANと携帯電話を一体化したデュアル端末の開発も盛んだ。独シーメンスの携帯電話端末部門を買収して名を馳せたBenQ社は無線LANとGSM携帯電話のデュアル端末「BenQ P50」を発売する。マイクロソフトのPDA向けOS「Windows Mobile」を採用したため,IP電話ソフト「Skype」を使える。BenQ P50なら網路新都などの無線LANエリアではSkypeで無料通話を,無線LANエリア以外の場所では携帯電話を使うといったことが可能になる。

 だがジレンマもある。Skypeに代表されるように「無料というイメージが定着しているIP電話で,どうやって課金するのかが最大の問題」(台湾区電機電子工業同業公会通信産業連盟の翁樸山会長)。

 面展開という新しい通信インフラを手に入れた台湾が,このインフラをどのように使いこなすのか。地理的に近い日本の通信事業者も注目している。

(武部 健一=日経コミュニケーション

【「面展開」した公衆無線LANの真価を問う】の特集ページはこちらをご覧下さい。