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 電力線通信の国内での実用化をめぐって,推進派と反対派が真っ向から対決。総務省の研究会が紛糾している(写真)。是が非でも実用化したい電力会社やメーカーといった推進派と,悪影響を受けると主張するアマチュア無線家や電波天文学者,短波放送局といった反対派の主張はかみ合わない。

 電力線通信とは,屋内などに張り巡らされている電力線(電灯線)を使用してデータを送受信する通信のこと。電力線通信用モデムのケーブルを電源のコンセントに差し込めば通信できる。電源コンセントを電源とデータ通信の両方に使えるため,配線の手間がない。コンセントは家中どこにでもあるため,機器の持ち運びも容易だ。

 これまで国内では,10k~450kHzの周波数帯を使う電力線通信だけが電波法により許可されており,空調機器や照明の制御などに利用されてきた。だが,利用する周波数帯域が狭いため,最大速度は10kビット/秒程度と遅い。そこで2000年ごろから,2M~30MHzを使う新方式が提案されるようになった。通信に使う周波数帯域幅が広いため,上りと下り速度を合わせると最大200Mビット/秒と高速な通信ができる。諸外国では既に高速タイプの利用が進んでいる。

屋内利用に限定して再起を図る

 総務省は電力線通信で使える周波数帯の拡大を検討に着手したのは3年前。2001年ころから,電波法の規制緩和を求める声が産業界から上がり始めたからだ。だが,2002年に行った実証実験の結果,電線から漏れ出す電磁波がアマチュア無線や短波放送などに悪影響を与えることが明らかとなり,2002年8月に実用化が見送られた。

 しかし議論が打ち切られた後も,電力会社やモデム・メーカーは,継続して漏えい電波を抑える技術などを開発してきた。また,電力線通信の実用化を推進する業界団体「高速電力線通信推進協議会」(PLC-J)を設立。一致団結して実証実験などを積み上げてきた。

 漏えい電磁波を抑える新技術を開発するとともに,利用場所を漏えい電磁波の影響が少ない屋内に限定することに方針を変更した。利用場所を屋内に限定すれば,壁による遮へい効果などもあり,他の無線局への影響を抑えられるからだ。そして今年1月,総務省は「高速電力線搬送通信に関する研究会」を設置,実用化に向けた再検討に入った。

本質は解決の難しい「周波数共用」問題

 電力線はもともと,50Hzや60Hzの低い周波数で電力を流すために設計された電線。2M~30MHzの高い信号を通信用に通すことは想定していない。また,電話線や同軸ケーブルなどの通信用ケーブルとは構造自体も異なる。電力線通信は有線通信だが,高周波信号を流すと,その周波数の電磁波が周囲に漏えいする。この漏えい電磁波が問題となっているのだ。

 たとえば,電話線は漏えい電磁波を一定以下に抑えるための規制が設けられている。また,同軸ケーブルはシールドされており基本的に電磁波は漏れ出さない。一方,電力線は2本の電線が並行して配置されているだけで,特別なシールドもない。「基本的には電気以外を流してはいけない構造の線」(ある有識者)なのである。

 電力線通信が利用を希望している2M~30MHzは,アマチュア無線,短波放送や電波天文,航空無線や海上無線などが利用している。電力線通信がこれらの周波数帯を使えば,漏れ出した電磁波が影響する。「本質的には,無線システム同士の周波数の共用となんら差がない」(名古屋大学エコトピア科学研究所情報・通信科学研究部門の片山正昭部門長・教授)ため,両者の利害は両立しにくい。

 今年1月に再開した研究会での論点も,本質的には3年前と大差ない。利用場所を屋内に限定し,電力線モデムの技術開発が進展しても,漏えいはゼロにはならないからだ。「本当に妨害がないのか証明してほしい」と訴える反対派と,「問題がないレベルに達している」と主張する推進派の間で水掛け論の応酬が続く。

 研究会が開始して8カ月経った今でも,推進派と反対派が歩み寄れる妥協点は見つかっていない。研究会を取りまとめる総務省の富永昌彦・電波環境課長は,「議論し尽くす以外に解決の道はない」とするが,落としどころを見つけるのは一筋縄ではいかなそうだ。

(山根 小雪=日経コミュニケーション