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文・清水惠子(中央青山監査法人 シニアマネージャ)

 To Beモデル(EAで目指す目標・方向性を基に作り上げる理想モデル)は、論理化の終了した業務モデルにふたつの作業を行なうことで作成する。現行業務、文化、組織の制約条件を持つ移行計画の作成は関係者の合意を得るの期間が掛かりに大変であるが、理想モデルは意外と簡単に作成することができる。

 一つはPDCAサイクルの持ち込み、もう一つはコアコンピタンス(競争優位。行政でなげれば行えない業務)以外の業務(主として単純な業務)を、高いサービスレベルで効率的に行なうことができる外部へ業務委託することである。

■PDCAサイクルの持ち込み──業務改善活動を実施し続ける

 業務・システム最適化を実行するにあたって重要なのは、改善活動が継続的に遂行されることにより、最適化されていくプロセスである。システムを導入さえすれば、効率的になるのではなく、関係者のコンセンサスを得ながら、業務改善活動を実施し続けるところに成功の秘訣がある。連載第3回で紹介したデンマークのポータルサイトの例にあるように、ある程度の期間にわたって業務改善への合意を形成しながら、業務とシステムを最適化していくのである。

 To Beモデルに向かう業務改革/改善は、継続的な改善活動により段階的に成熟度をあげながら組織、文化、業務を変えていくことによって達成される。そのためには、なによりもPDCAのマネジメントサイクルの確立が肝要である。方針(Plan)通りに実行(Do)されているか、見直し(Check)、追加指示・修正したり、承認したりする(Action)、PDCAマネジメント活動は、情報とコミュニケーションをベースとしている。

■図1 マネジメントシステムの役割
マネジメントシステムの役割をあらわしたイメージ
PDCAサイクルで段階的にレベルアップ

 将来体系(To Beモデル)は、常に達成すべき目標としてそれ自体変化しながらいつも前にある。To Beを目標とした移行計画が段階を踏みながら継続的に作成される。

■PDCAサイクルの動かし方─DFDに目標とモニタリングのファンクションを追加

 To Beモデルは、論理化後のDFD(機能情報関連図)に目標とモニタリングのファンクション(働き)を追加することにより枠として策定される(図2)。民間で広く利用されているERPパッケージは基本的に、論理化された業務にPDCAサイクルを取り込むように作成されている。いかなる具体的な目標を設定するかは、環境の変化により変化する。現時点では、まだ、モニタリングすべき目標が明確でない場合があるが、「To Be」として、目標とモニタリングのファンクションを追加する。

■図2 DFDに目標とモニタリングを追加してTo-Beモデルを作成
DFDに目標とモニタリングを追加してTo-Beモデルを作成

 これは、業務の流れにPDCAのマネジメントサイクルを取り入れることを意味する。計画、目標(PLAN)に対する結果のフィードバック(Check+Action、モニタリング)を基に業務の問題点を把握し問題解決のための対策を実施し、必要があれば計画自体を修正することもある。

■目標設定の考え方─BSC(バランススコアーカード)の活用

 住民サービスの向上、内部業務の効率化等はどのように明確な情報行政目標として提供されるであろうか。事例として、業績目標を具体化するものとしてBSC(バランススコアーカード)がある。一つの視点ではなく、財務、顧客、内部プロセスなどいくつかの視点が関連し一つの視点の活動が別の視点に対して因果関係を持ち影響を与え、結果として戦略的目標を達成するのがBSC(バランススコアカード)である。単に指標を導きだすのではなく、その影響を考慮していくところに意義がある。単に視点とその個別の目標を並べるだけでは戦略的バランスと言えない。たとえば、リエンジニアリングにより、内部での2つの処理、保育サービスの登録とケースワーカーへの登録を同時に実行することは、行政の内部管理業務を効率化することにより、その結果住民サービスも2度の登録作業を一度にして、効率を上げている。

■図3 業績測定参照モデルの例 (EA策定ガイドVer.1.1より)
図3 業績測定参照モデルの例をあらわした図表

■表1 投資比較表 (EA策定ガイドVer.1.1より)
評価指標 プロジェクトA プロジェクトB プロジェクトC プロジェクトD
有効性 5 2 1 4
特許数 2 0 0 1
投資回収率 80% 45% 0% 75%
・・・
このように、一覧にすることでパフォーマンスの管理を行うことが可能となる。

 米国では、Federal Chief Information Officers CouncilBest Practices CommitteeCommunity of Practice for IT Performance Managementに農務省がBSC(バランストスコアカード)をパイロットに適用したものが報告されている。食料管理システム置き換えによりIT戦略の実現の一部として50個の成果測定を提案している。

■コアコンピタンスを持つ外部への委託

 コアコンピタンスは、競争優位と訳されることもあるが、ある組織体が世の中に存在する価値を見出す優位な点である。自治体でなければ実施できない行政サービス業務は、基本的に自治体のコアコンピタンスである。民間でも実施できる業務は、民間に競争優位があるかもしれない。外部がコアコンピタンスをもつ業務を外部委託してコストを下げ、行政がコアコンピタンスを持つ行政サービスに集中することは、結果として行政サービスを向上させることになる。

清水氏写真 筆者紹介 清水惠子(しみず・けいこ)

中央青山監査法人 シニアマネージャ。政府、地方公共団体の業務・システム最適化計画(EA)策定のガイドライン、研修教材作成、パイロットプロジェクト等の支援業務を中心に活動している。システム監査にも従事し、公認会計士協会の監査対応IT委員会専門委員、JPTECシステム監査基準検討委員会の委員。システム監査技術者、ITC、ISMS主任審査員を務める。