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 地元の酒蔵に出かけて、仕込みの現場を見せてもらってきました。『田舎.tv』でレポートするためです。町おこしを目指したこのWebサイトをぼくたちは非営利組織(NPO)を土台に運営しています。活動の時間はなかなか取れません。本業が忙しいというのも確かですが、地域の「役」が多いということも理由のひとつです。

 京都の団地に暮らしていた頃は、町内会といってもせいぜい1、2割の世帯が加入するくらいでしたが、ここ兵庫県春日町においては、地区単位の自治組織が今もしっかり機能しています。行政とも密接に連携しており、町からの連絡は組織を通して回りますし、組織での決意事項が行政運営においても重視されます。そうした地縁型組織での活動が、人によっては毎週入るほど多いのです。

 このところNPOへの注目が高まっています。NPOと行政がどう“協働”していくか、大きなテーマにもなっているようですね。考えてみれば、田舎にはこうして昔から非営利組織が存在し、行政と協働してきました。地区ごとの組織のほかにも、農業委員や消防団などの活動がありますし、ときには施設建設や福祉など、各種委員会の委員を頼まれることもあります。京都に住んでいた頃と比べて、行政との距離がずいぶん近いというのが、田舎に「Uターン」してきての感想でした。電子自治体構想の中で、これらの組織をどう組み込んでいくか、忘れてはいけない視点ですね。

 ぼくたちがふだんNPO活動をしていて課題として抱えていることのひとつに、地縁型組織との関係があります。地縁型組織と連携することで活動を浸透させることができないか、ということです。地縁型組織は行政においても「オフィシャル」なものとして組み込まれていますから、それを考えることは、行政との関係を自然と考えることにつながります。

 最初にお断りしておきます。NPOと行政の関係について、現在のぼくたち自身、明快な指針を見出しているわけではありません。今回の原稿では、ふだん活動していて感じることを提示するにとどまることでしょう。そこで今回は、NPO活動をしている中で、行政の担当者が口にされたのを聞いて、ちょっと残念に思った言葉を3つ取り上げ、その言葉を巡りながら論を進めたいと思います。

■「何かできることないか?」

 まずは現在ぼくたちがNPOとして行っている活動を簡単にご紹介しましょう。団体名は「シフトアップかすが」。春日町を拠点に、地元をシフトアップして町おこしをしようとの決意を込めています。シフトアップというのは、車のギアを1速から2速、3速へ切り替えていくイメージを借りたものですが、つまりは新しいものを作り出すのではなく、ITをエネルギーに、今走っている地域という車の、伝統やよいところをより高めようというわけです。

 活動を始めて1年、これまで開発・提供してきたサービスは、前述のWebサイト『田舎.tv』のほかに、「見守りiカメラ」と名づけた、携帯電話とインターネットカメラを利用して自宅の寝たきり老人などの様子を外出先から確認できるサービスや、「緑地でネット支援隊」と名づけた、無線インターネット設置支援サービスなどがあります。このほか、ITの現状や可能性を伝えるセミナーなどを開催してきました。

 活動の中心となっているのは、主に30代。聞くところによると、春日町ではこれまで、こうして「若者」が連携する組織がなかったといいます。消防団などは若者中心ですから、そういう意味での連帯はあったのですが、町おこしといったような特定の目的を持って連携し活動することはまれだったのです。

 それだけに行政にも関心を持ってもらい、担当者から「何かできることはないか?」と折に触れ尋ねていただけます。ただ、「できることはないか?」という質問は、裏返せば現状は町として積極的な提案はないということでもあります。

 町から「こんなことをしたい」という提案が出るようだと、ぼくたちもいっそう燃えるのですが、現段階では互いに意見交換しつつ進めるという、ひとつのプロジェクト的な認識はなく、従来からの町民と役場の関係に近い構図でとらえられています。NPOとの企画会議を行政の公式な活動とするなど、一体化していけるようだとよいのですが。

■「議会を通るかなあ」

 行政とNPOの協働といったとき、おそらくもっともイメージのつかみやすいのは業務委託でしょう。行政サービスの一部をNPOに委託する。行政はコストダウンできますし、NPOは定期収入を得ることで活動が安定する。ぼくたちの地域においては、地縁型組織が担っている業務がそれに近いかもしれません。

 シフトアップかすがで行っている町おこし活動についていえば、農業水利や消防などと違って不可欠というわけではありません。業務委託という考え方にはなじまないように思います。長い目で見て町の将来を考えた活動なので、現時点で評価しづらいということもあります。資金的な支援は「議会を通るかなあ」と心配され、今までのところ日の目を見ていません。

 この1年間、行政側と話をする中で、将来への投資という考え方は、行政にはなじまないのだと気づきました。考えてみれば、行政のやる「町おこし」って、観光施設やホールなど、いわゆる「ハコモノ」や、単発のイベントのように、何に予算を使っているか、目に見えやすいものが中心です。

 そうした中で、町の広報誌にシフトアップかすがの活動を紹介するページを設けてくれたり、セミナーに後援として町の名前を掲載してくれるなど、直接費用のかからない範囲で、精一杯の努力をいただいています。それだけでも、広報力の低いぼくたちにとってはありがたいことです。

 これからは、これはぼくたちの努力不足でもあるのですが、町おこしのような将来的な課題についても、現在の問題として認識し、予算化できるような方法をともに考えることができればと思います。

■「NPOの人間と思われるとまずいので」

 シフトアップかすがでは、これまで行政の担当者にNPOの理事あるいは会員として加わってほしいとお願いしてきました。しかし、「公務員の兼業禁止規定があるから」と断られています。他地域では自治体職員の方がNPOでも活動されている例を見かけますから、これは春日町だけの問題なのでしょうか、あるいは全国的に明確な基準がないというだけのことなのでしょうか。

 実際のところ、NPOの活動に共感すればするほど、NPOへの積極的な関わりに二の足を踏む自治体職員の方がいらっしゃいます。予算確保やNPOとの協働を探ろうというとき、「きみの関わっている団体だろう」と私欲を指摘されるのがまずいからだそうです。

 直接的な関わりが難しいとして、今ひとつの形としてイメージするのは、“サンドイッチ型”の支援です。ひとつは広報面で住民に広く知らせるお手伝いをいただくこと、もうひとつはNPOの活動に参加したり、サービスを利用する住民を支援いただくこと。サンドイッチの“具”そのものに対しては支援できなくとも、“具”を挟むところで支援するというイメージです。

 もっとも、これはうすうす気づいているのですが、こうして「支援」と言っている間は、行政とNPOの間に距離がある証拠で、両者の活動が一体化していないことを表しているのでしょうね。それだからこそ「NPOの人間と思われるとまずい」という意識も生まれる。行政とNPOの関係の理想として、パートナーとしての協働とよく言われますが、それはつまり支援者と被支援者という関係ではなく、一体となってそれぞれが当事者意識を持って活動している状態をいうのでしょう。

 そのためには、密なコミュニケーションが欠かせません。電子自治体がコミュニケーションのインフラとしても働くことで、協働も進むのでしょうか。そんな期待を抱いてもいます。お互いがひとつのチームとなって、町おこしに取り組んでいきたいですね。

筆者紹介 小橋昭彦(こばし・あきひこ)

小橋氏写真マーケティング情報誌(メールマガジン)『今日の雑学+(プラス)』編集長。2002年2月に兵庫県氷上郡春日町にUターン、ITを利用してまちおこしに取り組む団体「シフトアップかすが」を設立。インターネット放送局『田舎.tv』など、都市と農村の新しい関係作りに取り組んでいる。