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廉宗淳氏写真

廉宗淳 (ヨム・ジョンスン)

イーコーポレーションドットジェーピー代表取締役社長

1962年韓国ソウル市生まれ。ソウル市公務員などを経て、1993年、韓国でソフトハウス、ノーエル情報テックを設立。2000年に日本でイーコーポレーションドットジェーピー株式会社を設立し、代表取締役に就任。聖路加国際病院ITアドバイザー、佐賀市の電子政自治体コンサルティングなどを行う。著書に『「電子政府」実現へのシナリオ 「ネット先進国」韓国に学ぶ』(時事通信社)。

 自治体行政情報システムの著作権はだれのものだろうか? 様々な意見があると思うが、私は以下の2種類ではないかと思う。

  1. すべての仕様を自治体に聞いて、それに基づきITベンダーによって作られたものについての著作権は自治体/ITベンダー共同である
  2. 先にベンダーが開発したパッケージがあり、多少仕様変更をして作ってもらった場合、仕様変更の部分だけが共同所有で、もともとのパッケージの著作権はITベンダー側にある

 これが一般的な理解でよいのではないだろうか。さらに言えば、ITベンダー側は、行政の業務プロセス自らの力だけで研究開発してパッケージを作ったのだろうか? そこには疑問が残る。ITベンダー側はいくつかの自治体を通じて開発をしながら、完成品といわれるものを作ったのではないかと思う。だとすると、行政情報システムの著作権がすべてITベンダー側にあるとは思えない。

 実はこのような問題が、日本の電子自治体の構築に大きな妨げになっていると私は考えている。基幹システムに、他のシステム(例えば自動交付機)をつなぐ場合を例に、著作権問題が電子自治体構築に与える影響を説明してみよう。

 基幹システムの著作権がITベンダー側にあり、自治体側が利用権だけを持っているケースを想定してみよう。日本の自治体では、このような基幹システムを利用権だけ5年リースで購入し、期限が終わるたびに再契約することが多い。

 では、その基幹システムに自動交付機をつなぐ場合を考えてみよう。図2のように中間サーバーを使う場合にせよ、図1のように直接つなぐ場合にせよ、いずれの場合も、普通は基幹システム本体を納品したITベンダーが当然一番有利な立場で中間サーバーや自動交付機の入札に参加することになる。基幹システムの著作権がITベンダー側にあるだけに、基幹システムとの接続に関するいわばインタフェース部分は、一般的にブラックボックスで非公開になっている。基幹システムを作った業者と自動交付機を納入する業者が違ってくると、自動交付機を納入する業者は基幹システムを作った業者にシステムの連携をお願いする立場になり、基幹システムを作った業者にインタフェース費用として高額の費用を要求されることが多いのが現状だ。

■図1 基幹システムに自動交付機が直接連結されたケース
基幹システムに自動交付機が直接連結されたケース

■図2 基幹システムに自動交付機が中間サーバを通じ連結されたケース
基幹システムに自動交付機が中間サーバを通じ連結されたケース

 そこで私は、リース期間満了時に、利用権だけ再リースを掛けるのではなく、オープンな環境で自治体側が著作権を持つような契約でシステムの新規開発に挑むことを提案したい。

 もちろん、この再開発の際にいかに安く調達するかは別の課題として残るし、新しい環境が落ち着くまでは、ある程度は職員にも負担が掛かるのは避けられないだろう。しかし、著作権を持つことで、自治体は5年ごとの再契約時にこれまでのような巨額のお金を支払わなくても済むので、かなりの費用を節約できることになる。

 また、著作権を自ら持つことで、自分たちの業務をどう効率化するかを主体的に考えることができるようになる。業務改革は常に行われるべきものだが、システムの著作権がないと業務革新に合わせてシステムを改変しようとしても、その都度多大なコストが発生してしまうことになる。

 地元企業育成という面からも、自治体は著作権を持つべきである。自治体側が著作権を持っていないと、基幹システムにつなぐ他のシステムを開発する場合、基幹システムを作った側が直接作業をするか、基幹システムを作った側が指定するITベンダーに任されるケースが多くなる。このため地元企業が参画する余地はあまりなく、参画するといっても単純な技術者派遣に過ぎないため、根本的な地元企業の育成には繋がらない。だが、基幹システムの著作権が自治体側にあり、ソースコードの公開やインタフェース部分のブラックボックスがなくなれば、(理屈としては)いくらでも地元の企業にシステムの改修作業や新規開発を任すことができるようになる。

 私がコンサルティングを担当した佐賀市では、今回、オープンな環境で、著作権を佐賀市とITベンダーが共同で持つ契約で基幹システムを開発し、この4月から稼動している。佐賀市は市の必要により内部の業務の改善や新規開発の為に、必要な部分の情報を外部に公開することができる。

 既存の資料が極めて少ないところで、佐賀市職員の業務知識だけを頼りに基幹システムを開発するのは簡単ではなかった。複雑な税金構造、国保など様々なところで壁にぶつかり、弊社はもちろん、開発を担当していたサムスンSDS、佐賀市役所の皆様も、開発の遅れなど苦しい時期があったのも事実だ。しかし、市長をはじめ三役の強力な推進意思と佐賀市職員の徹底的な使命感に力を得て、無事に本稼動が始まったところである。

 佐賀市は、今後基幹システムの修正や追加開発などには当然、地元企業にも同じような参加機会を与えることができる。実際、既にシステムの管理は地元企業が担当している。また、今後、基幹システムを再購入しなくて済むようになり、かなりの費用を節約できる見込みだ。自動交付機をつなげるインタフェース開発も従来より安価で済んだ。

 そもそも、韓国では当たり前のように著作権に関しては自治体もしくは国側に帰属されるのだが、なぜ日本の場合は、著作権に関して疑問を持たずに今まできたのだろうか? これは私が日本人ではなく外国人だから思う、極めて単純な疑問なのかも知れないが…。