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  近藤則子氏
 

近藤則子(こんどう・のりこ)

老テク研究会事務局長
早稲田大学国際情報通信研究センター加納研究室研究員

1955年生。米国マウントアイダカレッジ教養学部卒。1992年に老親を在宅介護する友人と共に高齢者や障害者の立場で情報通信を研究する老テク研究会を創設。国際シンポジウム開催等を通じ米国、韓国における高齢者のパソコン学習を支援する非営利活動を紹介し、日本各地のシニアネット創設や国内外の相互交流に関わってきた。1995年から総務省情報通信政策局研究会委員として政策提言。電子情報通信学会ICS研究会(塚田啓一委員長)会員。


 高齢者が高齢者にパソコンを指導する「シニアネット」とよばれるパソコンボランティアの活動を、自治体が支援しようという動きが高まりつつある。規模や運営主体は様々だが、高齢者のパソコン学習を支援するボランティア団体は、全国に1000カ所くらいは存在すると言われている。

 きっかけは1999年に全国の郵便局1800カ所で開催された「シニアパソコン教室」と、2001年に3000を超える自治体が主催した「IT講習会」である。多くの市町村が、市民からの強い要望を受けIT講習会参加者のフォローアップとして、自治体独自の予算で市民対象のパソコン教室を継続させている。こうした市民パソコン教室運営にシニアボランティアが活躍しており、高齢者の新たなネットワークとして各方面から注目され、都市部を中心に活動が広がってきているのだ。

■情報社会を生き抜くための「生きがい支援型」福祉

 地方自治体がシニアネット活動を支援するメリットは大きい。まず、電子自治体導入に向けてのデジタルデバイド解消策としての側面がある。電子自治体が提供するサービスは(高齢者も含め)市民がパソコンを扱えなければ、意味をなさないものが多い。高齢者へのデジタル情報活用の啓発、教育を市民との協働で行えば、小さな予算でも普及効果は大きい。また、時間とお金にゆとりあるシニアパワーを活かして、崩壊したといわれて久しい地域社会の再構築する最適な手段にもなる。

 さらには、自治体財政を破綻させかねない医療や介護保険費用の抑制効果も期待できる。2003年度の介護保険総予算は5.4兆円。市町村からも6000億円を拠出している。医療費は、このまま増え続けると2025年には現在の1.7倍の81.4兆円にまでふくれ上がり、その過半数を70歳以上の高齢者が使うことになるという予測もある。パソコンを通じて社会参加をすることが高齢者の健康維持に結びつけば、医療費削減につながるだけでなく、ネットを活用した経済活動にも貢献できるというわけである。

 老いることはあらゆるものを失うプロセスでもある。家族や友人との死別。孤独な日常生活は病気や痴呆の原因にもなる。かといって一人暮らしの高齢者をねらった犯罪の多さを思えば、うかつに他人を信用しにくい現実がある。帰属する組織を失った多くの高齢者に社会との豊かなかかわりをもつ機会は少なく、敬老精神が失われつつある現代では若い世代との交流も難しい。

 だからこそ地域に根ざした、顔の見える人間関係が重要になってくる。自宅から気軽にアクセスできる電子共同体は、もう一つの心通う地域の人々との出会いの場になりうる。なにより、加齢とともに身体、視聴覚機能が低下した高齢者にとってパソコンはそれらを補完してくれるすばらしいコミュニケーション支援機能があるのだ。

 今年2月に発足した松本市などが支援するシニアネット「ほっとねっと松本」代表である井口庸生さん(69)は、退職後、信州大学で学んでおられるが、若い学生と親しくなれたのはインターネットのおかげだと、同世代に活用を勧めている。長くなった老後を支える良い人間関係をパソコンで創れる時代になったのだ。

 とはいえ、従来の家電製品と違って、パソコンの利用技術の習得は難しい。若い人と一緒ではついていけないと考える高齢者にとって、同じ世代が講師を務める無料講習会は気軽に参加でき、大変喜ばれた。離れて暮らす孫とのメールのやりとりは一番人気である。パソコン仲間ができて元気になったという声もよく聞かれる。

 パソコンを教わる事は楽しく、教えることは生きがいにもなった。京都のシニアネット「金曜サロン」の森田信治さん(75)は、拡大鏡やフィルターキーなどのパソコンの障害者支援機能は高齢者にも便利であると知り「アクセシブルテクノロジ」教室を開設し、会員から大好評だったという。定年後はカラオケや温泉でお休みくださいというこれまでの「いたわり型福祉」ではなく、新しい情報社会を生き抜く学習機会と活躍の場を提供する「生きがい支援型」福祉の誕生である。

■自治体ホームページをシニアボランティアと協働で創る

 ホームページの制作は、自治体とシニアが協力しやすい分野といえそうだ。金沢市の「シニアネット金沢」の城森順子さん(64)は、金沢市のホームページの観光情報「兼六園花便り」を発信する情報ボランティアである。兼六園を散策し、週に1回折々の花々をデジタルカメラに収め、季節に寄せた文章とともに掲載して8年目。花便りはまもなく400号になる。長野県阿南町の三浦とよみさん(64)は地元の深見池の環境を守る会のホームページを立ち上げ、ふるさとの自然を大切にする活動への支援の輪を全国に拡げている。

 横浜市都筑区では区役所の発案で市民がホームページ作成を習得し、「都筑の魅力探検隊」という人気コーナーを担当している。月間のアクセス数は都筑区のサイト全体へのアクセスの4割近い約3万件にも達しているという。

 自治体のホームページをみれば、その町がわかる。地域に愛着を持つ市民たちと協働してウェブサイトをつくれるような、行政と市民の温かい関わりが持てるような地域であれば、老後の不安も乗り越えていける希望がもてそうだ。

■高齢者への敬意と忍耐がないと、シニアネットとの連携は難しい

 沖縄市の「沖縄市ハイサイネット」は、毎年8月の仙台七夕の時期に、沖縄市の商店街とシニアネット活動の盛んな仙台市を結んで電脳七夕祭を開催している。市民相互のメールのやりとりだけではなく、沖縄と仙台のシニアがお互い訪問し、「沖縄市をシニアネットのメッカにしたい」と主宰者である市の砂川正男収入役自らが手弁当で奔走している。岡山市では意欲も技術も高い高齢者のインターネットを介した様々なビジネスへの参加を歓迎したいと、新しい高齢者の働き方を支援する方法に着目しているそうだ。高齢者が元気になることで、福祉予算を軽減できるだけでなく新しいビジネスも創出できるなら、活動支援費用は安いといえよう。

 このようにシニアネットとの関係がうまくいっている自治体では、自治体の情報政策や高齢者政策担当者が、高齢者へ敬意を持って忍耐強く接している。決して簡単なことではない。これまで筆者が関わったいくつかのシニアネットでは、自治体職員とシニアネットの指導者の相性が悪く、お互い譲らず衝突してしまう場面も少なくなかった。また、シニアネットの指導者は地域の首長も一目置くような存在である場合が多く、そのことが自治体担当者との人間関係を難しくしてしまう要因となっているケースもあるようだ。

 そこで、シニアネット活動を支援する担当者には、できれば若い(40歳以下)女性を配置されることをお勧めしたい。実際、高齢者のメンバーだけではなく“気配り上手な若いお世話役”が存在するシニアネットは、うまくいっている団体が多い。もう一つ、小さなグループをたくさん地域に作り、多くのシニアに肩書き・役割りを用意するのもシニアネットのスムーズな運営のコツだ。人数が増えれば人間関係のトラブルも増える。だから、グループは大きすぎない方がいい。地元出身の人柄の良い“お世話役”の特技や個性を活かした、顔の見える楽しい交流を演出するのが成功の秘訣である。