●今回と次回は行政サービス機能を取り上げる。電子自治体の基本中の基本である「行政サービス機能」は、黎明期に中央から要求される機能を達成するところから一歩踏み込み、拡張性がなければならない。ブロードバンド時代を象徴してか、拡張性などと言っていても、すぐに陳腐化し、見直しをせざるを得ない。だからと言って、最初から巨大システムを構築する程の資金力も、将来への見通しも立っているわけではない。

●素人だから、官庁だから、とシステム構築側にすべてを委ね、うまく行かない時のリスクを取らないのも問題であろう。中庸としてのバランスをどうとるべきか、システムの「中心」ではなく「重心」を探してみたい。

■行政サービス機能を巡る問題意識

 自治体間の“大競争時代”における電子自治体での「行政サービス」とはどんなものなのか? これを考えることを意識したい。

 「行政サービス」とは、「囲い込んだ」コミュニティの「構成要素」に対する「サポート」である。いわば契約事項の履行ととらえてもよい。

 コミュニティの構成要素は、現在いるヒトや企業とともに、将来「来るであろう」構成要素も考慮する必要がある。将来的には、電子自治体の住民が必ずしも自治体内に居住しているとは限らない。また、現段階では当該電子自治体に属さない人々も、行政サービス機能の高度化を見極めつつ、次の段階で加入するべき電子自治体を探す可能性は高い。そうした人達に、快適なサービスやサポートを提供するための「ツール」はどうすべきか、「アクセシビリティ」をどう確保すべきかなどが、ここでの検討対象となる。

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行政サービス機能の高度化
 さて、今週は、行政サービス機能を整備する際の「ヒト」と「モノ」について考える。

■ヒト

 電子自治体にとっての「ヒト」とは、「組織(役所)」であり、「コミュニティのシステム(系、連係)」である。「電子自治体」といっても、あるいは流行りのブロードバンド対応を目指しても、実際にはリアルな部分での「マネジメントの高度化」が求められる。

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ヒトに関する各機能の検討課題

Q5
「行政サービス」機能の強化に際して、「ヒト」については何に留意しなければならないのか?



A5
自治体組織の内側と外側の双方において、組織の活性化を図ることが大切

・クラスター制度の導入

 電子自治体の行政サービス機能を高度化するには、自治体組織の内側と外側の双方において、組織の活性化を図ることが望まれる。特に内側では、「クラスター制度」などと呼ばれる「アメーバー組織」を導入し、「フラット」かつ「増殖(削減)可能な」柔軟な組織を新たに構築することを心がけるべきである。

 「クラスター」は「ぶどうの房」を意味する。組織を「ぶどうの房(クラスター)」に見立て、良い実(チーム、チームリーダー)は種を残し、次年度における事業継続を認める。反対に、パフォーマンスの悪い実は取り除くように、適時解散する。こうしたことを繰り返すことにより、良い遺伝子を残し、新陳代謝可能な組織を作り上げることができる。


・導入によって、電子自治体の運営にどんなメリットがあるか

 「クラスター」は、時代要請により、リーダー自らが手を上げ、スタッフ(メンバー)を集めることから始めるため、硬直的な対応に陥りやすい既存のピラミッド組織に新たな活力を植え付けるチャンスを与える。綿々と継承される自治体サービスは、一定のリズムで刻みつつ、飛躍を期待する新たなサービスや投資などに対して集中的に人員を配置することが可能である。

 特に期待されるのは、失敗の許されない自治体経営について、弾力的かつ試行錯誤可能な状態を創り出すことであり、特にスピードを要求される場面や分野、例えば期間限定のイベントや、ITやバイオなど急速な成長が見込まれる分野などで効果が認められている。

 「クラスター制度」の導入においては、組織全体の制度そのものを根本から動かすにはかなりの労力を必要とするため、まずはイベントやナレッジ・マネジメントなどで外部専門家の力を借りつつ部分的に導入し、一定の効力を得ることから始めるのも一つの方法である。

・情報交差点

 組織の外側については、行政サービスの「窓口」を広げる必要がある。その際に最も有効なのが「情報交差点」への窓口の展開である。

 「情報交差点」とは、コンテンツが双方向でやり取りされる「場」を指す。生活の中に根ざしており、わざわざ行くのではなく、普段の生活の中で通過する「場」である。例えば、「駅」「コンビニ」「図書館」「カフェ」「郵便局」「病院」などが挙げられる。

 また、電子自治体が発達した場合、より複合的で立体的な「情報交差点」の登場が期待できる。一つには、上記「情報交差点」が融合した「複合(ハイブリッド)型」の電子自治体の登場だ。例えば、病院と図書館が“融合”し、簡単な診察や予防医学的な機能と地域高齢者向けの生涯学習機能を併せ持った施設の誕生が待たれる。

 もう一つは、より弾力的に、自治体外に設ける「立体型」の電子自治体の登場である。例えば、「新幹線の車内」「空港の待合い室」「ターミナル駅」などが挙げられる。潜在的な未来の自治体住民や、進出検討企業の「外部からの積極的なアクセス」に応える必要が生じるからだ。

 競争力のある電子自治体では、メッシュ状に窓口を設け、「ユビキタス(いつでも、どこでも、だれとでも)」の状態を作ることが求められるが、こうした情報交差点を活用することで、限られた人的資源でも時間や場所を選ばずサポート(サービスを提供)することが可能となる。

・動ける範囲の縮小

 また、高齢社会を迎えるなか、高齢者が自由に動ける範囲が狭くなってくる。こうした背景を踏まえ、窓口をどこに置くか、その他サポートすべき仕組みは何か、必要最低限望まれる電子自治体としての「コンテンツ」は何か、誰がどういうシチュエーションでそうしたコンテンツを使うのか……こうした課題を検討することが望ましい。

 例えば、電子自治体を支えるリアルな部分で、デリバリーを生業(なりわい)とする企業のサポートが望まれる。こうした“専門家”としては、新聞配達業、健康食品配達業、タクシー会社、その他運送業などを想定できる。

林氏写真 筆者紹介 林志行(りん・しこう)

日本総合研究所研究事業本部・主任研究員。日興證券投資工学研究所を経て1990年より現職。企業のウェブ事情、インターネットを利用したマーケティング戦略に詳しい経営戦略コンサルタント。近著に『中国・アジアビジネス WTO後の企業戦略』(毎日新聞社)、『インターネット企業戦略』(東洋経済新報社)など。個人ホームページ「Lin's Bar」に過去の連載などを掲載。