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 今回は、現在の電子申請に足りないものとして、「マーケティング」と「監視・評価」について取り上げてみたい。

電子申請に足りないもの

 先頃、電子商取引推進協議会が発表した「ECベストプラクティス調査報告」(『ECOM Journal』第6号、2003年5月12日)によると、企業の優位性構築において「顧客対応、サービス力」と「マーケティング力」への期待が高くなっている。一方、電子政府・電子自治体においては、「顧客(市民)対応、サービス力」は重要視されるものの、「マーケティング力」が強調されることは少ない。

  しかし、マーケティングは、電子政府・電子自治体において大切な要素だ。もちろん、より良い電子申請を実現し普及させるためにも必要となる。前回のコラムで取り上げた「市民が電子申請を利用するまでのプロセス」を検討することも、マーケティングの一部である。

 それでは、電子申請におけるマーケティングとは何であろうか。マーケティングと言えば、市民の行動やニーズの調査・分析、インターネット等を活用した広報活動などがイメージされやすいと思うが、実際はもっと広い役割と意味を持っている。筆者なりに定義すると、

「対象者(企業、個人、行政職員)の好意・利用・満足を、より効率的・効果的に獲得できるよう、サービス・人事・手数料・流通・広報活動等の政策を統合化し、電子申請の価値を高めてくれる活動や情報活用を支援すること」

となる。常に電子申請の全体像を見据えながら、電子申請の価値を高める方法や仕組みを考え実行することが求められるのである。

■「ターゲティング」「ブランディング」の視点から

  今後の電子申請を改善していくためのマーケティング活用例として、例えば次のようなものが考えられる。

【ターゲティング】

 対象を絞り込むことである。電子申請においては、電子化する手続きの絞り込み、利用者層の絞り込み等を意味する。市民のニーズに応えることはもちろん、全手続きを一つのシステムで電子化する場合と比較して、失敗した時のリスクも少ないと言っていいだろう。

 「各国政府関係者が顧客セグメント別に異なるニーズを満たすべく、さらにオンライン・サービスの個別化に注力する傾向が高まれば、電子政府プログラムは、より成功し、かつより高い投資効果をもたらすものになるでしょう」──オンライン化する手続きを慎重に選ぶことの重要性について、米アクセンチュアの官公庁本部グローバル統括パートナー、スティーブ・ロールダー氏はこう指摘する(「電子政府進捗度調査報告」〔2003年4月〕より)。

 誰に利用してもらうかを明確にすることも大切である。今までは、まず「電子申請、電子行政サービス」ありきの計画だったが、より利用者の背景・生活をイメージしたアプローチが望まれる。性別、年齢、職業、家族構成、年収、資産保有状況、地域の特性などを考慮しながら、様々なタイプの市民層への対応、さらには新しい生活スタイルへの対応も必要となる。前回のコラムでも触れたような、最初は利用者のターゲットを「ITスキルの高い人」に絞り、徐々にターゲットを拡大するという方法も考えられる。

【ブランディング】

 電子申請のブランドとは、役所文化の象徴であり、電子行政サービスの表看板である。役所内の考え方や仕事の進め方が変わらなければ、電子申請ブランドの確立も困難となる。サービスの質が向上すれば、電子申請ブランドが確立するかと言えば、そういうわけでもない。なぜなら、電子申請のブランドは、「提供されるサービス」ではなく、「市民との関係」に焦点を置くものだからだ。

 電子申請ブランドが確立するまでには、次のような過程を経ることになるだろう。

(1) 役所の文化が変わる
(2) 提供されるサービスの質が向上する
(3) 市民の安心・信頼を獲得する
(4) 市民と行政の良質な関係が生まれる

 そして、電子申請ブランドを維持するということは、市民と行政との良好な関係を維持することに他ならないのである。

 今までの電子申請においては、「2003年度までに96%の手続きをオンライン化する」というように、電子化される手続きの数で競っていた感がある。ところが、それでは使える電子申請は実現しないし、市民の利用もなかなか進まない。

 こうした現状に直面して、ようやく政府も方向転換するようになった。先頃決定された「電子政府構築計画」では、「国民の利便性・サービスの向上」を実現するために、「徹底的な利用者視点に立ったサービス改善、量から質への転換」を行うとしている。

 そのためには、議会、企画・開発、決裁・処理、窓口、財務、人事等が連携・協力できる体制を作り上げなくてはならない。さらには、市民との連携・協力も必須となる。これらを上手にまとめあげ、役所内外の人材や資源を有効に活用するにあたっては、マーケティングの専門家の知恵を借りる必要があるのではないか。電子政府構築計画では、民間活力の活用を進めるとのことだが、電子申請システムの構築・運営については、ぜひともマーケティングの専門家を登用して欲しいものである。

■市民による「監視」と「評価」の仕組みが必要

 電子申請を改善していくためには、監視と評価の仕組みが不可欠となる。ここで大切なのは、電子申請を監視し評価するのは、行政でも有識者でもなく、市民であるということだ。

そのためには、
  • 情報公開が徹底されていること

  • 評価の基準や指標がわかりやすいものであること
が必要となる

 現在稼動している電子申請システムや電子認証サービス等の利用状況について、ほとんど情報が公開されていない。利用者数、利用割合(紙申請との比較)などの利用状況を随時公表するべきである。

 電子申請システムAの構築費用と年間維持費が合わせて5000万円かかります。2003年度の利用数は100件でした。1件あたりの費用は50万円です。一方、紙申請では1件あたり500円です。

 電子申請システムBは、今まで結果がわかるまで30日かかった手続きを、3日で処理するようになりました。


 といった形で評価内容が公開されれば、誰が見ても理解できるだろう。費用、利用件数、処理時間、市民の満足度などを基準に、紙による申請との比較、さらには他の自治体の電子申請や電子商取引(民間)サービスとの比較が行われるようにしたい。

■失敗事例を次に活かすためにも、情報公開を

 行政側で失敗を認めることは少ないが、監視や評価が適切に行われれば、多くの電子申請失敗事例が出てくるだろう。これは、政府の透明性や説明責任という観点から見ると、決して悪いことではない。

 英国政府、マンチェスター大学などによる「eGovernment for Development」という電子政府活用プロジェクトでは、積極的に失敗事例を取り上げ、そこから多くのことを学ぼうとしている。

 オーストラリアでは、電子政府の進捗状況調査・評価が、単に計画の達成状況を把握するものであったことを反省し、より市民の視点に立った電子政府の投資効果を評価する試みがなされている(NTTデータ「オーストラリアにおける電子政府の費用便益分析 」より)。

 フィンランドでは、注目を集めた住民向けICカードが、既存のサービスシステムと思うように連携できず失敗したことなどから、多くの反省点・改善点を認識した上で、電子行政サービスの計画を見直している(Action Plan to Promote Online Government in Finland 2002-2003)。

 このように、電子政府先進国ほど、失敗から学んだことを生かし、新たな成功に繋げていると言える。

 計画性も自主性もない失敗は論外であるが、成功を目指し、やるべきことをやり、少しでも良い状況を作り(一部の成功)、きちんと失敗要因の分析を行うのであれば、電子申請の失敗が無駄になることはないのである。

 電子政府の実現により、政府の透明性・公開性が高まることが期待されている。電子申請においても、透明性・公開性を基礎とした、適切な監視と評価が行われることが期待されているのである。

 次回は、税金の無駄遣いと言われないように、「電子申請とコスト削減」について考えてみたい。

牟田氏写真 筆者紹介 牟田学(むた・まなぶ)

行政書士として登録後、電子申請・電子政府に興味を持ち、自らのウェブサイトManaboo's Roomを起点として関連情報を発信。研究会等に参加しながら、電子申請がもたらす様々な可能性を探求している。共著に『インターネット電子申請』がある。