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河合輝欣(かわい・てるよし)

ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン会長/プロジェクトマネジメント学会理事(前会長)/TDCソフトウェアエンジニアリング社長

1966年、旧・電電公社に入社。1988年にNTTデータ公共システム事業部長、1995年常務取締役、1997年副社長。2003年からTDCソフトウェアエンジニアリング社長、プロジェクトマネジメント学会会長(現在、理事・研究委員会委員長)、NPO法人ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン会長の三役をこなす。

 寸断が許されない社会インフラは、もはや電気や鉄道ばかりではない。銀行のATMのような企業や住 民に必須といえる“サービス”そのものも含まれるようになってきた。早晩、行政の電子サービスもその一つに含まれる日が来るだろう。

 サービス・インフラをどう作っていくのか、模範となるのが行政の責務だと思う。自治体をはじめ、公共的なシステム構築に関するノウハウは、プロジェクトマネジメント(PM)の手法を用いて体系化し、社会的に共有すべきだ。プロジェクトマネジメントとは、品質や予算、時間の制約内で目的/目標を達成するために知識やスキル、技法を用いる手法であり、システム構築などで用いられている。「PMBOK」というPM知識体系の事実上の標準も存在する。

 こうした考えを基に私は「ソーシャル・プロジェクトマネジメント(ソーシャルPM)」という概念を提唱し、必要性を訴えている。ソーシャルPMとは、電子政府/自治体や医療・福祉、教育などの公共分野を対象にしたPMのこと。社会価値を創出・増大させることが目的だ。そのためには、まずソーシャルPMのノウハウを業種ごとに体系化し、全体最適を目指す。医療と福祉といった各組織ごとに縦割りのシステムの共通部分を明らかにできれば、集約・連携させることでよりよいサービスを提供できるようになると考える。

■住民や企業も巻き込み改善

 「ソーシャル・プロジェクト」は大規模システムであるだけに、構築期間が長く全体最適化や目標、責任があいまいになりやすい。現在、各省庁で進める電子政府構築計画や、各都道府県の電子自治体の共同構築、レガシー刷新などで、いくつもの団体が同じような失敗を繰り返さないためには、ソーシャルPMでノウハウを共有すべきだろう。ある程度参考になるくらいでも良いので、「どのようなリスクがあったのか」「どのように障害を乗り越えたのか」といったノウハウを少しずつ積み上げていくことが重要だ。

 さらに、ノウハウをため込むだけではなく、普及や改善のための体制整備も必要だ。企業では、「プロジェクトマネジメント・オフィス(PMO)」という組織を設置しPM手法の決定を支援したり、ノウハウの標準化を進めているところがある。また、PMOでは、ある先行事例のノウハウを持つ部門の担当者に特別手当を出して、別部門の社員を研修してもらうといった教育的な役割も担う。

 こうした制度は、政府や自治体でも導入できるだろう。ただし、ソーシャルPMの場合にはPMOの範囲を広げて、住民や企業などからもノウハウや意見を取り入れるようにし、蓄積したノウハウを改善して電子行政サービスを向上すべきだろう。

 さらに、ソーシャルPMのノウハウの社会的な公開・共有は、国際競争力の向上にも役立つ。私はNTTデータ在職中に、中国の郵便貯金の大規模システムの一つを米仏などと競合し落札した。ハードやOSなどは欧米製品であり弱い立場にもかかわらず受注できたのは、日本でのPMの実績が決め手になったからだ。ソーシャルPMは国力を高めるためのカギでもある。