行政は市民、住民の声を聞くことが大切だ。声を集めるためには、手紙、電話、窓口、電子メール、Webサイトの入力フォームなどさまざまな手段がある。多くの自治体では、「直接対面したり話をしたりしないで済むためコミュニケーションを取る際に心理的な抵抗感が低い」とされるインターネットの特性を生かし、Webサイトでの情報収集に策を講じていた。
手紙を書いたり、電話を掛けたりすることはおっくうでも、Webサイトの入力フォームやメールを通じてなら住民も声を寄せやすい人もいるかもしれない。ましてや、携帯電話で電子メールに慣れ切った若い世代の声を集めるには、インターネット媒体に大きな力を期待できる。Webサイトや電子メールを通じた公聴が、市政あるいは県政を活性化する契機ともなり得れば、という判断だろう。
「全国自治体サイトユーザビリティ調査2004/2005」の結果でも、多くの自治体が情報収集のためにWebサイトを活用しているさまを浮き彫りにした。
調査では、Webサイトの双方向性を測る尺度として、「自治体の連絡先・アクセス情報」「問い合わせ情報」の2点をチェックした。これらの機能の充実が、自治体サイトの情報収集への役割につながると判断したからだ。
調査の結果では、10点満点だったサイトは331自治体のうち78件(24%)もあった。満点に近い8点以上の自治体を合わせると、全体の1/3程度の自治体サイトが、地域住民とのコミュニケーションの面では合格点に達していると言える。
■基本は住所や電話番号も含めたアクセス手段の明記
「Webサイトで住民の声を集める」というと、まず電子メールやWeb上の入力フォームが思い浮ぶ。「トップページあるいは問い合わせ一覧ページから、電子メールまたはWebフォームによる問い合わせや意見・感想を受け付ける機能を利用できる」かどうかを調べたところ、この機能を用意していないのは331自治体中55件(17%)だった。インターネット利用のコミュニケーションについては、各自治体の熱心さをうかがい知ることができた。
しかし、Webサイトを閲覧することはできても、サイト内を自由に動き回って自分の求める情報や連絡機能にたどりつけない利用者もいる。電子メールや入力フォームよりも、電話をかけたい人もいる。このためWebサイトでは、インターネット以外のアクセス手段も案内することが不可欠になる。
Webサイトのトップページにはまず、自治体の住所や電話番号を明記することが望ましい。加えて少ないクリック数で部署別の電話番号を、各部署の担当業務の説明とともに知らせたい。最も手軽な通信手段はやはり電話である。
自治体の住所・電話番号の記載という基本的な条件に関しては、さすがにおろそかにはしている自治体は少なかった。「トップページに本庁の住所・電話番号を記載している」という条件から外れたサイトは、331自治体中6件だけだった。ただし、「部署・部門別の問い合わせ先を掲載しているか」と条件を少し厳しくしてみると、94件(28%)がこの条件を満たしていなかった。
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滋賀県のサイトでは、部署別の電話番号一覧/電子メールアドレス一覧ページへのリンクを分かりやすい位置に配置。 |
電子メールと電話番号を、ともに分かりやすくWebサイト上に配置した好例としては、滋賀県のサイトがある。トップページに右下に県庁に関する情報をまとめ、部署別の電話番号とメールアドレスをそれぞれ、「電話番号一覧」、「メールアドレス一覧」というリンクから誘導したページで一覧表示していた。
福井県のサイトも分かりやすい。メールアドレス、電話番号を1ページで見られる構成は便利だ。ただ、トップページのリンク名が「福井県へのお問い合わせはこちらまで」となっているため、リンク先にどんなファンクションがあるのかが分からない。部署別の電話番号やメールアドレスが一覧表示されていることを明記するといっそう使いやすくなる。
■携帯電話の活用は入力端末という発想も必要
インターネットを公聴に生かすうえで今後重視されるべきポイントは、携帯電話への対応だろう。 「トップページに携帯電話向けのサイトへのリンクを用意している」というチェック項目に適合したのは、331自治体中の158件と半数程度だった。
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山形県「やまがたアグリネット(あぐりん)」。屋外作業を行っていてパソコンを使えない人向けに、携帯サイトでも農業関連情報の一部を提供する(要会員登録)。 |
調査では携帯電話向けのコンテンツまではチェックしなかったが、自治体の携帯電話活用方法は盛んに研究されている。一般には、緊急情報、イベント情報、観光情報などの提供に使われている。山形県のように、屋外作業を行っていてパソコンを使えない人向けの情報提供サービスの一つとして、農業関連情報を携帯電話でも提供する例もある。「やまがたアグリネット(あぐりん)」では、会員登録をした利用者向けに、携帯サイトで緊急技術情報、気象情報、市況情報を提供している(トップページでの案内が不親切なのが残念だ。「会員登録」のページに飛ばないと、携帯向けコンテンツが存在することが分からない)。
このように、パソコンを使わない人たち、またはパソコンを使えない環境にいる人たちへの情報提供手段として、携帯電話はもっと活用できそうだ(ただし、携帯電話端末で表現できる情報は3G機でもやや貧弱といえる)。
発信手段としてだけでなく、最近では入力ツールとしての携帯電話の利用も増えてきている。 例えば、若い人たち向けのアンケートの回答用に携帯電話を活用するケースは、民間企業ではよく目にするようになった。ある企業の実績としてこんな話を聞いたことがある。その企業では、これまで、雑誌でアンケートを告知して郵送だけで回収していたが、回収数は減少の一途をたどっていた。しかしあるとき、携帯電話での回答サイトを用意し、郵送と併用した結果、携帯電話での回答の方が郵送よりも数倍多く集まり、効率よく回収できたという。
対象者の属性や、利用内容にもよるが、自治体でも入力端末としての携帯電話活用について真剣に考える時期が来ているといえそうだ。
![]() 日経BPコンサルティング調査第三部チーフコンサルタント。官公庁、企業のウェブサイトのユーザビリティ、アクセシビリティに関するコンサルティングを手掛けている。『ネット広告ソリューション』(日経BP社)、『戦略ウェブサイト構築法』(日経BP社)などインターネットの戦略的活用法についての書籍やCD-ROMの編集も担当。 |