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文・石井恭子(日立総合計画研究所 新社会システムグループ 副主任研究員)

 民間企業は、これまで領収書をはじめとした多くの書類を法定の保存期限に従って紙で残してきました。紙で保存するとなると、運搬や管理のためのコストが少なくなく、一度保存した書類を探し出すのも容易ではありません。日本経団連が2004年3月に発表した「税務書類の電子保存に関する報告書 」によると、税務書類の紙による保存コストは年間約3,000億円にも上ります。

 一方でITの発達によって、膨大な量の書類を小型の媒体にデータとして記録して紙を減らすことができるようになっています。このITの利点を活用することで、企業の書類の保存に関わるコスト削減を図ることを目的に作られたのが、2005年4月1日に施行となったいわゆる「e-文書法」です。

 e-文書法は、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(通則法案)と、「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(整備法案)の二つの法律の通称です(図表)。従来法律により紙での保存義務があった書類について、原則的に電子的保存を可能にする内容の法律です。具体的にどの書類を対象とするのか、どのような方法で保存すべきかについては、各府省が省令で定めています。

■e-文書法の概要
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(通則法案) 企業に対して書類での保存が法律で義務付けられている場合、原則として当該書類を電子的に保存することを可能にするための共通事項を規定
民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(整備法案) 通則法案の施行に伴い、通則法案で包括的に規定する事項の例外事項、通則法案のみでは手当てが完全でない 72 本の法律の整備
IT戦略本部資料より作成

 実は、帳簿に関しては1998年に成立した電子帳簿保存法により、自分で最初から一貫してITを用いて作成する帳簿書類であれば電子保存は可能でした。これに対し、今回のe-文書法は、取引相手から紙で受け取った書類や手書きの書類もスキャナーでイメージ化することも認めていることから、電子化する対象が大幅に拡大したと言えます。ただし、e-文書法ですべての書類の電子保存が可能になったわけではありません。例えば、国際的な条約により電子化ができない場合、緊急時に即座に読める状態にする必要がある場合(安全のため船舶に備え付けるべき書類など)、複製による制度の運用が想定外の場合(許可証、免許証など)は適用除外となっています。

 電子データを紙の書類と同等に扱うには、いくつかの技術的な要件があります。例えば、電子化した書類を見て読めるかどうか(見読性)、年数を経ても保存したときと同じ状態を維持しつつデータの改ざんや消去を防ぐことができるかどうか(完全性)、データの機密管理をできるかどうか(機密性)、必要な情報を探すことができるかどうか(検索性)といったことが重要になります。

 しかし、こうしたe-文書法で求める技術的要件を満たす文書管理体制を整えるには、現状ではかなりの初期投資が必要になります。長期的に見ればコスト削減につながるとはいえ、こうした投資ができるのは一部の大企業だけなのではないか、という指摘があります。電子文書保存に関わる製品やサービスの普及が必要なのかも知れません。

 なお、地方自治体には、企業に対して紙による書類の保存を義務付ける条例があることから、e-文書法は、地方自治体に対して条例改正などを通じて政府と同様の取り組みを行うことを努力義務として定めています。また、政府が情報提供などを通じて地方自治体の取り組みを支援することも同様に定めています。今後、地方自治体における取り組みが進めば、企業の電子文書保存を後押しするのではないでしょうか。