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■すぐに現れた市民によるITガバナンスの効果

 市民組織によるITガバナンスの実効性は狙い通りに表れた。情報システム検討委員会は、発足した2002年4月直後に、市の教育委員会が進めていたシステム導入計画の見直しに着手することになった。市の中心校である志木小学校の建て替えを機に、市内の小学校8校と中学校4校のすべてをネットワークで結び、児童/生徒に電子メールやインターネットを利用させるプロバイダー事業や、全児童に関するデータの集約管理などを実施する計画が発覚したのだ。既に志木小学校には、約1万人が同時利用可能なネットワーク機器が納入されており、初期工事が進められていた。

 この計画を察知した情報システム検討委員会は疑問を感じた。民間のサービスを利用するのに比べて、学校でシステムを自主運用するとあまりにもコストが掛かりすぎるからだ。さらに、児童の住所や成績データなどの集約管理は必要性が低かったうえに情報漏えいの危険性もあった。穂坂市長(当時)は「便利だからとベンダーの言いなりになってしまっている印象を受けた」という。

 当時、情報システム検討委員会会長だった深谷氏は、穂坂市長(当時)から全小中学校のネットワーク化のメリットとデメリット、そしてほかに代替可能な案を問われた。深谷氏は、防災や不審者対策に活用できる反面、「システムの運用には最低3人の技術者が必要で、人件費だけでも年間3000万円は掛かる」「民間のサービスを利用すればより安価に構築できる」ことなどを報告。穂坂市長(当時)は、既に導入が始まっていた志木小学校単独での導入にとどめ(注3)、全小中学校間のネットワーク接続計画は中止、児童のデータは各校で管理するようにした。

(注3)立て替えた志木小学校には、公民館や生涯学習施設などを兼ねる「いろは遊学館」が併設されており、志木小学校とコンピュータ・ルームを共有して利用している。

■徹底した裏付け調査が市民の提言を確証あるものに

 翌年2003年1月には、教育コンテンツの共有・受講を可能にするCAI(Computer Assisted Instruction、コンピュータを利用した教育)システムの追加導入計画も、情報システム検討委員会の指摘により見送られた。同委員会は、前年度に中学校2校で導入されたCAIシステムの利用実績がわずか6 時限しかないうえ、内容が数学の1分野にすぎないにもかかわらず費用が1校350万円も掛かっていたことを突き止めた。こうして、新たな追加導入計画(さらに中学校2校へ導入)は中止となった。

 さらに、前・情報システム検討委員会会長の深谷氏は、志木の二つの中学校で導入したシステムを利用するためのモデルであった埼玉県両神村の中学校まで手弁当で出掛け担当教員からも話を聞いている。

 その結果、両神村でCAIシステムを構築した当時は、利用できる民間のコンテンツ配信サービスがほとんどなかったという事情があり、必ずしも自前でのシステム導入を前提にしていないことが分かった。さらに、CAI教材を教員が自主作成することを主眼としており、志木小学校のように外部作成のコンテンツを利用する前提だと著作権利用料が高くつくこと、無償の教育コンテンツの利用で代替できること、なども判明した。

 こうした地道な裏付け調査により計画は見直されたのだ。穂坂市長(当時)と情報システム検討委員会は決してなれ合いの関係ではなく、喧々諤々の議論をたびたび交わしている。市長や担当部門を納得させるためにも、裏付け調査による確かな事実が必要だったのである(注4)

(注4)さらに2003年9月に、河川の水門を開閉するシステムの改修を情報システム検討委員会が審査したときにも、会長(当時)の深谷氏は旧知の仲である知人に価格の相場や保守体制の一般的な状況を聞き込みした。「特殊なシステムなので事情が分からず、人命にもかかわる事なので責任を感じました」(深谷氏)。この場合は調査の結果、適切な予算額であるとして改修計画は実行された。