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■苦手なIT導入は市民の力で克服
——穂坂邦夫・志木市 前市長が語る

穂坂邦夫氏

穂坂邦夫氏(ほさか・くにお)

埼玉県志木市 前市長(インタビューは市長在任中に行われた)

1941年生まれ。埼玉県職員、旧・足立町(現・志木 市)職員を経て、志木市議会議員、埼玉県議会議員に。専門学校、病院なども経営。学習塾の経営経験もある。2001年に志木市長に当選。25人程度学級の実現、市業務を委託する「行政パートナー制度」の導入など、その他多数の施策でも注目を集めた。2005年6月30日に市長を退任後は、NPO法人「地方自立政策研究所」(6月末認可予定)を設立し、個性ある地方政策の推進に取り組む。

 そもそも行政はITを苦手とする体質です。前例を踏襲して、滞りなく業務を遂行することが命題であり、IT導入の本来の目的である業務改革という考えが浸透していません。

 私は技術的な詳細は分かりませんが、他方で、ITベンダーの営業手法に疑問を抱いていました。私が経営している病院のシステム導入などで身をもって感じていたのです。こうした環境の中で、市はこの苦手なIT導入をどう克服するのか——。その補完役を、市民委員会のIT部会と、情報システム検討委員会に担ってもらいました。

■市民が監視役として目を光らせる

 市民に重要な役割を担ってもらったのには、いくつかの理由があります。私は埼玉県議会議員時代に、ITに関する議員連盟の会長をしていましたが、県議も県職員もITについて詳しく分かる者がおらず、専門のコンサルタントに相談していました。一方、市の状況を見るとコンサルタントを雇う余裕はないうえ、情報システム部門を経験した職員は絶対的に少ないため庁内だけでは人員をまかなえません。そこで、IT分野で優秀な市民を放っておく手はないと考え、そうした市民に活躍してもらうことにしたのです。

 市民に補完してもらいたかったのは、ITの専門家としての視点である「専門性」だけではなく、一市民の視点である「一般性」を加えた二つです。市民委員会のIT部会には「一般性」の観点で市のITに関する全体構想を、情報システム検討委員会には「専門性」の観点から個別のシステム構築案件を、主に担ってもらいました。市民が受けたいサービスは、市民が一番分かっています。市民の二つの視点と、市職員の行政の視点との三点があいまってうまくバランスが取れたと思っています。

 また、雇い入れたコンサルタントではなく、市民だからこそ前例にとらわれず直言できたことも大きいです。こうした市民の視点を取り入れる仕組みにより、前例踏襲やベンダーの提案を鵜呑みにしたシステム導入ができなくなりました。当初、職員は戸惑っていましたが、最終的には受け入れてもらえたと思います。逆に、市民委員会と情報システム検討委員会の提案が的確であったとも言え、その仕事ぶりを高く評価しています。

■他の市町村でもできるはず

 他の市町村でも志木市のような仕組みを取り入れることは可能だと思います。300組3000人もが市の取り組みを視察に訪れたことから、他の市町村でも関心が高いのは確かです。苦手なことは正直に言って、住民に補完してもらうのです。学校で先生がパソコンの使い方が分からなければ、生徒が先生役になり教えてもらうぐらい柔軟に考えれば良いと思います。

 そのためには、あらかじめ職員が作った行政案を議論するのではなく、「持ちつ持たれつ」や「主従」の関係を捨て、市民とともに切磋琢磨しゼロから作りあげていくという意識改革が必要です。首長が強い意志で担保し責任を持てば、この市民主導の仕組みを実現できるはずです。