【東京都杉並区・中野区】住基ネット なぜ“離脱”したのか?
個人情報保護への懸念が最大の要因
■全国の市町村すべてが参加することになっている「住基ネット」(住民基本台帳ネットワークシステム)。しかし、福島県矢祭町、東京都杉並区、中野区、国分寺市の4自治体は、今のところ参加していない。この4自治体のうち、最も早い時期から住基ネットについて慎重論を唱えていた杉並区、そして今年8月5日の稼働日以降に離脱した唯一の自治体である中野区の事例をレポートする。(文:黒田隆明=編集部)

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■アンケートで住民の8割以上が不参加を表明 今後は国に“選択性”の提案へ——杉並区
杉並区は、最も早い段階から住基ネットについて慎重論を唱えていた自治体だ。2000年6月の区議会において、山田宏・杉並区長は住基ネットについて「個人情報の保護上大きな危惧を抱かざるを得ない。極めて慎重に対応すべきものと考える」と答弁。同7月15日には、朝日新聞紙上で「場合によっては参加しない選択肢もありえる」と不参加を視野に入れた発言をしている。その後、2001年9月3日には、「法律に従って住基ネットへ参加せざるを得ない状況になると考えている」と、山田区長は住基ネット参加の意志を表明したが、同時に、区民の基本的人権が侵害される恐れがある場合には、住基ネットへの情報提供を一時停止することを盛り込んだ「住基プライバシー条例(杉並区住民基本台帳に係る個人情報の保護に関する条例)」案を提出、同月12日に区議会で可決された。
杉並区では、条例実施を予定していた2002年8月5日(改正住民基本台帳法の施行日)を約1カ月前倒しにした形で、7月5日に「住基プライバシー条例」を施行した。条例施行を前倒しにした理由は、個人情報保護法案が成立しそうもない状況の中、政府は法が成立しなくても住基ネットを稼働させようとしていたためだという。これは、2002年6月に総務省に提出した参照文書に対する回答から明らかになったものだ。
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集計期間:2002年7月9日~9月5日 回答者数:5629人 |
この区民アンケートでは、本庁舎に来庁した区民、対話集会参加区民、区政モニター、ホームページ登録者、電話帳で無作為に抽出した区民、広報はがき返送者の合計5629人から回答を得た。その結果、8月5日の住基ネットの稼働について、82.53%(4110人)の区民が「凍結・延期すべき」と回答した。
同じく2002年7月には、有識者で構成された区長の私的諮問機関「杉並区住民基本台帳ネットワークシステム調査会議」が設置されている。この調査会議も条例に基づいて設置されたもので、区としての住基ネットへの対応について助言をする役割を持つ。そして8月1日には、「現時点で住基ネットに接続し、(情報の)送信を開始することについては大きな危惧を抱かざるを得ない」という中間報告が区長宛てに提出された。
この結果を受け、杉並区ではただちに、個人情報保護のための法制度が整備されるまでは、住基ネットには不参加とすること、都に対して準備段階で送信した情報の消去を求めることを決定した(2002年8月1日)。「法第36条の2に基づき(略)確固とした個人情報保護のための法制度が整備されるまでの住基ネットへの不参加は適法である」(8月1日の山田区長のコメント)という判断である。なお、東京都は現在のところ杉並区の情報の消去に応じていない。杉並区では、今後も東京都にデータ消去の要望を続けていく。
杉並区では、今後の住基ネット参加の条件として「確固とした個人情報保護のための法制度の整備」を挙げている。この“確固とした法制度”とは、現在の個人情報保護法案の成立を指すものではない。
8月28日に発表された「杉並区住民基本台帳ネットワークシステム調査会議」による第一次報告書には、“確固とした法制度”の要件として「行政個人情報保護法の抜本的強化」「住基ネットの利用事務の拡大を検証するための第三者機関を設けること」など5項目の提言がなされている。この提言を元に、「杉並区として、どういう内容の個人情報保護の法制を要望するのかを近いうちに公表する」(芦塚課長)。
また、山田区長が主張している住基ネットの“市民選択制”、つまり、希望者のみが住基ネットに参加するという制度の導入についても、近く総務省に提案していく方針だ(※)。
なお、杉並区のこうした一連の動きを別表にまとめました。併せてご参照下さい。
※ 編集部追記(10月17日) 10月11日、山田区長は片山虎之助総務大臣あての要望書を提出、選択制への住基法改正、行政機関個人情報保護法案に思想・信条などセンシティブ情報の収集禁止規定や、目的外利用への罰則規定などを盛り込むことを要望した。