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 1カ月ほど前、取材で三井住友海上火災保険の営業課支社を訪れた。目に付いたのは、電話の応対に忙しそうな女性社員の姿。代理店からの問い合わせを受けたり申込書を処理する一般職の人たちである。

 日中、外勤の営業担当者は外出しているため姿は見られなかった。同じ営業部門でも担当によって業務内容は異なる。業務内容ばかりではない。従来は、成果に対する注目度合いが、営業担当者と後方業務を担当する一般職社員とでは違っていた。

 「営業の数字にはいろんな指標があるのに対して、事務の指標はなかった」。東京プロエージェント部の佐々木慎二・次長はこう話す。

 契約を獲得した件数や保険料収入など、営業担当者の場合は成果がどれだけ上がったかが明確だ。たくさん契約を取ってくれば周りが称賛してくれ、それがまたやる気につながる。

 一方、契約を取った後の事務処理を担当する社員は、仕事の成果をはっきりと示すものがほとんどなかったのである。ところが、1年半ほど前から始めた全社CS(顧客満足度)向上活動「CS100点運動」で状況は一変した。

 「証券作成平均日数」「代理店契約入力率」「月末集中率」――。CS100点運動では、CS向上に結び付く指標を9つ定義した。指標の改善に大きくかかわるのは、代理店対応の窓口である一般職社員たちだ。これまで、当たり前に実施してきた代理店とのやり取りの成果が数字として目に見えるようになった。

 「もうすぐ満期を迎えるお客様の契約を更改してください」「月末に申込書のやり取りが集中しないようにしていただけませんか」。日ごろ、一般職社員たちは熱心に代理店を指導してきた。にもかかわらず、従来は代理店に業務を改善してもらうのは容易ではなかった上、改善したとしてもその成果が周りに伝わりにくかったのである。

 「いつも手続きが遅いわねえと言うだけで終わってしまっていた」。東京プロエージェント部プロエージェント二課の佐々城明子・業務リーダーはこう打ち明ける。だが、今は違う。

 「あそこの営業課支社は月末集中率が10ポイントも改善したぞ」。代理店の業務が改善すると、後方業務担当の社員は脚光を浴びるのだ。

 「契約未更改件数はあと3件です。頑張りましょう」。「当月分と来月分の未更改リストを送っちゃうんです」。こう話す佐々城・業務リーダーの表情からは笑みがこぼれる。CS100点運動は、一般職社員に新たなやりがいを与えたようだ。

相馬 隆宏=日経情報ストラテジー