サントリーの企業研究記事を執筆した私は、同社が昨春から打ち出しているビール「モルツ」の「天然水100%仕込」を理解するため、2週連続で東京都府中市にある「武蔵野ビール工場」を訪れた。お酒が苦手な私の場合、自分から積極的にビール工場を訪れることはない。ビール工場での取材は貴重な体験になった。
最初に訪れたのは3月31日の午後。目的は、ビール工場を訪れる一般顧客の様子や見学コースの内容を自分の目で確かめ、写真に収めることである。
まず驚いたのは、私が参加した午後2時からの見学に、20人以上の人が集まっていたことだ。平日の昼間に、これだけの人が来ている。見学は午前10時から午後4時まで30分おきに実施されているので、毎日100人ほどは来るのだろう。年間では、サントリーの4工場に合計50万人が押し寄せる。
この日は春休み期間中だったこともあり、見学にはたくさんの子供たちが交じっていた。子供がビール工場に来ることに違和感を感じたが、よく見ていると、大人たち以上に展示されている麦やホップ、ろ過装置などに興味を示している。20年後にはモルツのファンになっているのかもしれない。
見学の後に待っている出来立てのモルツの試飲のことで頭がいっぱいの大人たちとは反応が違って見えた。ちなみに子供にはジュースが振る舞われる。私も子供たちと同じジュースを飲んでしまった。
2回目に訪れたのは、1週間後の4月8日。この日も午後2時前にビール工場に到着した。前回よりもさらに多くの人たちが見学に来ており、見学コースの入り口はごった返していた。
ただ、この日の私は一般顧客とは別のスケジュール。マスコミ向けの特別見学メニューに参加した。通常の見学では入れない、実際の工場現場でろ過工程などを見て回った。
ビールは発酵後、2週間ほどタンクで寝かせて熟成させ、最後にろ過機で酵母を取り除いて出荷する。ろ過機を通ったばかりの文字通りの出来立てビールは、口に含むと確かに非常にスッキリしていた。普段お酒を飲まない私にも、よく分かる。
この日の見学の最大の目的は、水系の違う天然水で作った4種類のモルツの違いを理解することだった。サントリーは全国4カ所にビール工場があり、それぞれ違う水系の天然水を地下深くからくみ上げている。最近モルツファンの間では、水系の違うモルツを飲み比べるのが話題になっているようだ。私も挑戦してみることにした。
その前に、天然水と水道水の違いを飲み比べてみた。私の場合、臭いの違いまでは分からなかったが、味ははっきりと違いが分かった。地方出身の私は上京した当時から東京の水道水がまずく感じて仕方なかったが、天然水と飲み比べてみると、やはり天然水のほうがうまさは断然上だと思った。ただし、人によっては水道水がうまいと感じる人もいる。
武蔵野ビール工場は神奈川県の屋根と呼ばれる丹沢山地から流れ込む「丹沢水系」の地下水を使ってモルツを作っている。私が飲んだ天然水も丹沢水系のもの。サントリーはビール工場の立地の違いで、丹沢水系以外に、赤城山水系、天王山・京都西山水系、南阿蘇外輪山水系の4種類の天然水を使っている。これが4水系の天然水である。
さて、ここからが本番。4水系のモルツを飲み比べて、味や香り、色合い、泡立ちなどの違いを確かめてみる。私の場合、普段ビールを飲まないので「おいしさ」の違いは判断しにくいが、逆の意味でアルコールに敏感なので、舌でなめるだけでも結構違いが分かることもある。
私を含めて多くのマスコミ陣の反応は、南阿蘇外輪山水系のモルツが一番スッキリしていて違いが分かりやすいということだった。顧客の多くやサントリー関係者もそう感じている人が多いようである。私の場合、それ以外の水系の違いはよく分からなかったが、水系が西に行くほど、よりスッキリしていくような気がしなくもなかった。
味は人それぞれ感じ方が違う。当然好みの水系や印象も違ってくる。どれを飲んでも同じに感じる人もいるだろう。水系が違うとはいえ、同じモルツなのだから、それはそれで構わない。だからサントリーは今のところ、どの水系がどんな味わいといった表現は、あえて避けているという。
3月に全国発売した「4水系4缶セット」のモルツの販売も順調で、水系の違いを味わうというビールの新しい楽しみ方を提案できた。まだまだアサヒビールやキリンビールとの差は大きいが、4水系の天然水が業界に一石を投じたのは確かである。
それにしても、2度もビール工場に足を運びながら、出来立てのビールを堪能できない自分が残念でならなかった。