「我々は携帯電話を使って世界に前例のないビジネスを創造しつつある。そして,既存のビジネスロジックを根底から覆すことができるかもしれない」(サイバード)。
「公式サイトになりたいと申請してくる事業者の企画は,独自性に乏しいものが多い。既存のサービスの物まねではない面白さがほしい」(KDDI)。
iモードやEZwebなどの携帯電話向けネット接続サービスを使ったモバイルEC(電子商取引)には今,全く異なる2つの“潮流”がある。1つは,こうした日本発のインフラを利用し,自らも「世界を引っ張る」との気概を持ち新しいビジネスを創造する動きだ。もう1つは,「他社がやっているから,うちも」とばかり,先行企業のサービスをコピーしたようなビジネスに乗り出そうとする動きだ。
ただし最近は,“物まねビジネス”では携帯電話会社が認定する公式サイトになるのは難しい。公式サイトは既にiモードだけで1800以上もあることから,独自性のない企画では門前払いになってしまうからだ。アイデアは先行企業から借用し,後は携帯電話会社のお墨付きや課金代行サービスなどを利用してもうけようという,安易なビジネスは通用しないわけだ。
こうした携帯電話会社の審査は,今では「特定の事業者を優遇する措置で,公正な競争を阻害している」と評判が悪い。特にNTTドコモは“悪の帝王”といった趣だ。総務省も問題視しており,KDDIは2001年秋に,NTTドコモは2003年春に,公式サイトをリンクするポータル画面の運営をプロバイダーなどに開放することを表明するに至っている。
もちろんモバイルECの発展にとって,ポータル開放により競争が促進されることが望ましい。しかし,個々のモバイルEC事業者のビジネスの側面から言うと,話が少し違う。
例えば公式サイトでの着メロサービスは,iモードだけで既に40もある。参入が自由化されたとしても既存のサービスをまねただけのビジネスで,どうやっても収益を上げようというのか。NTTドコモなどの“横暴”に非を鳴らすのも結構だが,審査担当者をうならせるような独自性を打ち出した方が良くはないか。
モバイルECでは,既に多くのビジネスが育っている。特にコンテンツ配信サービスを手がけるサイバードやインデックスなどベンチャー企業は上場を果たし,中国や韓国など海外にも進出している。いち早く新しいビジネスに乗り出すことで培ったノウハウを武器に,これからモバイルECに取り組む企業を対象にコンサルティングやシステム構築も手がけるまでに成長した。
クリック&モルタル企業の代表格,カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)も,モバイルECで物まねでないビジネスを創造した。顧客の携帯電話に配信するオンラインクーポンは効果抜群で,配信するたびに店舗の売り上げが2~3割高まるという。今後は,店頭のPOS(販売時点情報管理)により収集・蓄積した顧客の購買履歴を基に,顧客ごとに的確な情報を提供するサービスを強化する。
今どき誰もが思いつくサービスのようだが,さにあらず。CCCは10年以上にわたりファクシミリやCD-I(音楽や映像などを扱えるCDメディアの1つ),衛星放送などを使って,今と同様のサービスを展開しようと試みてきた。それらはすべて失敗に終わったが,そうしたチャレンジで経験を積んだからこそ,携帯電話向けのサービスでいち早く飛び出すことができたのだ。
このようにモバイルECを担う企業は,世界に誰もお手本がいない中,新しいビジネスを創造し続けている。何もiモードのインフラビジネスだけが世界に先駆けるものではないのだ。米国のビジネススクールのマーケティング学者も日本に来た方がよい。きっと素晴らしい研究ができるだろう。
考えてみれば,1995~96年のネットビジネスの黎明期には,日本企業は米国企業と共に世界の最先端にいた。「米国に比べ2~3年遅れ」が定説なので,意外な感を持たれるかもしれないが,これは事実である。
95年4月に野村総合研究所で,日本のECの草分けとなった電子モールを立ち上げた藤元健太郎氏(現フロントライン・ドット・ジェーピー社長)は「最初は米国に遅れをとっていなかった」と話す。96年12月に日本エアシステムが始めた航空券のネット販売も,当時としては世界的に見て最先端の試みだった。
しかしその後,日本のネットビジネスは米国に遅れをとることになる。スピード競争に負けたのだ。モバイルECはその心配がない。欧米にiモードなどのインフラが普及するのは,まだ時間がかかる。その間にケータイECに取り組む企業は世界の最先端を走り続けることができる。
今,モバイルECに関して,「もうからない。ビジネスにならない」との話をよく聞く。確かに,物まねビジネスはもはやもうからない。しかし独自の工夫をすれば,まだビジネスチャンスは数多くある。最近では公式サイトに比べビジネス上圧倒的に不利と見られた“勝手サイト”でも,成功事例が出てきている。
日経ネットビジネスでは次号「8月10・25日合併号」で,最新のモバイルECのビジネス構築法を紹介する。ぜひ参考にしていただきたい。さあ,今度こそ世界の最先端を走ろうではないか。