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 2004年1月27~28日に開催されたソフトウェアテストシンポジウム(JaSST'04,主催はソフトウェアテストシンポジウム実行委員会)に合わせて,Tom DeMarco氏(写真)が来日,日経ソフトウエア誌記者との会見に応じた。DeMarco氏は「構造化分析とシステム仕様」「ゆとりの法則」「熊とワルツを」などソフトウエア設計やプロジェクト管理に関する世界的な著作で知られる。会見の要旨は以下の通り。

――あなたは,「ゆとりの法則」ではプロジェクト管理にSlack(ゆとり)が必要だと説きました。そして最新作の「熊とワルツを」では,プロジェクトにはリスクに立ち向かう勇気が必要だと語っています。これらは相反していないのですか。どう関連しているのでしょう。
 リスクの多いプロジェクトを始める時,それはこれから長期間の労働が始まるということを意味するわけではない。プロジェクトのリスクというは,時間が足りないというだけでなく,難しいことに立ち向かう,つまり知的な挑戦をしなければならないということだ。その場合に必要なのは質の高い時間であって,量ではない。長いだけのプロジェクトでは疲れてしまう。
 例えば,携帯電話向けにあるソフトウエアを開発するとしよう。そこで求められているのは,電話的な機能をさらに埋め込むことではなく,“なぜ,携帯電話にカメラが付いていないの?”といった見方をすることだ。“携帯電話にカメラを付けたらいいのでは”といった創造的な思考を持てる人というのは,24時間座ってプログラミングをしている人ではなく,ある程度ゆとりを持っている人だろう。
 こうしたプロジェクトのリスクとは,作業が多すぎて間に合わないといったことではなく,カメラ付き携帯電話を出したところで誰にも受け入れられなかったらどうするか,といったマーケット的なリスクの方が多い。しかし,そうしたリスクに立ち向かう企業の方が成功する例は多い。

──プログラミングはもともと創造的で楽しいものなのに,それが仕事になったとたんに苦しくてつらいものと感じてしまう傾向があります。ゆとりを持てと言われてもなかなか難しい。
 ソフトウエア開発は本来素晴らしいもので,夢中になってしまう性質のものだ。それゆえ,もし一人の開発者に長い時間を与え,自由にやらせればきわめて良いものを作るという可能性がある。しかし,彼がいったん自分は会社に利用されている,搾り取られていると思ってしまった時点で,楽しむ気持ちがうせてしまう。
 今,企業は一時的に不安定な状況になっている。恐怖に支配された心理状態に近い。それが,コスト削減や長時間労働などの無理を従業員に強いる形で現れる。こうした不安定な状況は,論理的な結論に至るべきだと思う。
 1930年代に米国のルーズベルト大統領が“今,恐れる必要は何もない。恐れなければならないのは恐怖心そのものである”と言ったが,同じことを経営者達に言うべきだろう。新しい世代の勇気あるマネージャが,恐怖心にとらわれた経営者達に取って代われば,状況は改善していくと思う。それは日本だけでなく,世界的に同じだ。
 現在,グローバリズムに恐怖を感じる経営者達がいるようだが,グローバリズムそのものは,とてもエキサイティングな出来事だ。しかし,それは状況を不安定にする側面も持っている。だからといって恐怖心を持つのではなく,勇気を持って立ち向かうことが必要なのだ。

──あなた自身は,自分の仕事をどのように管理しているのですか。
 私はいつも,To Doリストを作っている。1日の少なくとも半分は,そのうちの大きなことをやり,残りの半分でその他の小さなことを実行する。つまり,1日の半分は,野心的で大きな試みに取り組むように心がけている。それが,自分の成長を促すからだ。私は今,小説を書いているのだが,それは失敗する可能性がある。というより,失敗する可能性は高いと思う。それでもリスクに立ち向かっている。過去の成功パターンに則って同じことを繰り返し,成功を続けるということもできるだろうが,現在は,安全策は必ずしも安全ではないという時代なのだ。
 リスクに立ち向かうことで成長するというのは,人間にとって基本的な真理だと思う。それを企業に当てはめようというのが今の私の考えだ。

──ところで,最近プログラミングをしていますか。
 米AT&Tベル研究所(当時)で,世界で最初の電子式電話交換機の開発に携わって以来,20年間プログラミングをやっていて,非常にプログラミングが好きだ。現在も,リスク・シミュレーションなどをExcelのVBA(Visual Basic for Applications)で作っている。

(インタビュアーより:Tom DeMarco氏は終始,穏やかに気配りを持ってインタビューに応じてくれ,さながらハリウッドの老優のような落ち着いた雰囲気をかもし出していた)

(日経ソフトウエア)