3月18日,LinuxWorld Conference Japan'99で,Linuxディストリビューション大手,米Red Hat SoftwareのBob Young最高経営責任者(CEO)が熱弁をふるった(写真は最後に)。午前10時40分から約1時間の基調講演,午後1時からは記者会見。基調講演はスライドやOHPなどを一切使わず,身振り手振り付きでステージを左右に動いてしゃべり続けた。記者会見も「特に話すことはないので質問を受けよう」と立ったままで約1時間。自らを「セールス・ガイ」と呼ぶ通り,エネルギッシュな人柄を感じさせた。話した内容は筋書きがしっかりしたものとは言えないので,面白かったところを抜き出してお伝えしよう。

●夢は世界征服だ
 Linuxカーネルの開発者であるLinus Torvalds(ライナス・トーバルズ)氏をはじめとする我々の夢は世界征服(World Domination)だ。私たちはバイナリOSベンダー達よりもユーザーの側に立つことで,世界征服を実現しようとしている。

●Red Hat Softwareとは?
 私はもともとカナダでコンピュータのレンタル,リース業に従事していた。その頃UNIXのユーザーグループと付き合い始め,しばらくしてユーザーグループのためのニューズレターを出すようになった。ただ,6カ月後には出版というビジネスにうんざりしてしまったけどね。その頃,92~93年に読者に何について知りたいかよくたずねたものだった。答えは「フリー・ソフト」「オープンソース・ソフトウエア」だった。当時PC用のベターなKernelとしてLinuxがエンジニアの間で注目を集め始めていた。
 あの頃はエンジニアが作ったものがエンジニアに流れるという状態で,コミュニズムみたいだったね。そこにはエコノミック・モデルというものがなかった。そして,それをもたらすために,real UNIX for the PCを提供するために94年にRed Hat Softwareをスタートさせたんだ。後はアプリが増えて,ユーザーが増えて,またアプリが増えて,その繰り返しさ。今では従業員が70人ほどになった。

●Linuxのビジネス・モデルとは?
 ある日気付いたのは,世の中の多くのソフト,そして多くの良いソフトはインハウス(企業内,学校,自分の家など)で書かれているという事実だった。実際,企業でも本当に欲しいソフトは社内で開発している。それに比べると,パッケージに入って販売されているソフト,セールス・レプリゼンタティブのブリーフケースに入っているソフトは大したことはない。市場に出ていない素晴らしいテクノロジがいくらでもあるんだから,それを市場に出せばいいんだ。自分でテクノロジを作って,売ろうとするという過去のモデルとは違う。
 私はセールス・ガイである。ただ,コミュニティのサポートがなければビジネスができない。そのためには,コミュニティのルールを守らなければならない。それは承知しているつもりだ。
 Linuxのビジネス・モデルはこれまでのソフトウエアのビジネス・モデルとは違う。どちらかというと,ケチャップや石けんといったコモディティ(日用品)ビジネスのイメージに近い。そこには,技術があり,ほんの少し違う製品があり,強力なブランドがある。例えば,ケチャップならハインツといった具合だ。人々はブランドを信頼してその製品を購入する。品質,継続性,信頼性を重視してビジネスを進めていけば,Red Hatをそういうブランドに育てることができると思う。

●Linuxのキラー・アプリは?
 誰もオペレーティング・システムを買ったりはしない。人々が買うのはアプリケーションだ。OSの普及には必ずキラー・アプリケーションの存在があった。Linuxのキラー・アプリはWebサーバー,ftpサーバー,メール・サーバー,プリント・サーバー,ルーターなどのインターネット・サーバー・ソフトウエアだ。今後,オラクル,インフォミクス,IBMなどのデータベースが使えるようになると,それらもキラー・アプリになるかもしれない。ただ,これらの製品は発表されて,出荷され,セールス・レップのカバンに入るまでは時間がかかるだろう。

●我々が求めるのはパーフェクトな信頼性である
 我々が求めるのはパーフェクトにリライアブルなシステムだ。今のシステムのヒトケタ上の信頼性が必要なのだ。ここでLinuxがオープン・ソースであることの利点が生きてくる。
 例えば,あなたが何かのプロジェクトをやっていて,OSのバグに遭遇したとしよう。マイクロソフトに言っても,私たちに言っても基本的な答えは同じではないか。「次のバージョンで対処したいと思います」。しかし,Linuxなら,あなたはソースを使って自分で解決できる可能性はある。
 インテル,ネットスケープ,IBM,コンパック,ノベル,オラクルなど多くの会社がRed Hat Linuxを使い始めている。彼らはもうOS自体を手掛けたくないのだ。そして,彼らはOSに問題があれば,ソースを使ってその問題を解決できるわけだ。ソースが公開されていれば,あなたが誰であっても,彼らのような大手ベンダーと同じようにOSに接することができる。

●Linuxのユーザー数は99年末には3000万~4000万に
 Linuxについてはマーケティング・データは圧倒的に不足している。リサーチ会社が取り上げ始めたのは最近のことで,これまでの私のリサーチは,関連する雑誌の部数の推移を見ることが主だったりする。
 世界全体のユーザー数は,2年前には300万人と見積もっていた。昨年は750万人だ。500万~1000万といった幅があるけど,大体そんなところだろう。我々の概算では,今日はざっと1500万~1650万,年末には3000万~4000万と予想している。年率100%以上の伸びを示していることは間違いないし,そのペースも上がりつつある。

●LinuxはWindowsをリプレースするものなのか?
 米国では,デスクトップではマイクロソフトのオフィスが動かなければいけない。マイクロソフトがLinuxにオフィスを移植することはしばらく考えられないので,そういう点ではLinuxのデスクトップがせっけんするとはあまり考えていない。
 ただ,日本では少し違うかもしれない。日本にはジャストシステムという大手があるし,彼らはLinuxに積極的だと聞いている。日本では今年ビッグ・ウェーブが来るかもしれない。
 大きく言って,デスクトップ・プロダクティビティ・ツールは退屈(boring)だ。これからは,もっと違うアプリケーションが出てきて,表計算やワープロのようなソフトは落ち目になるだろう。

●なぜLinuxはうまくいったのか?
 以前からUNIXは素晴らしいOSだったが,それは非常に断片化(フラグメント)された状況で,それらをつないでアプリケーションを動かせるようにするのは大変だった。それらを一括して手に入るパッケージにしたのがディストリビューションだ。そういう意味では,我々はものを流しているだけではない。Linuxのビルダーだ,と言いたいくらいだ。
 また,UNIXのソフトはソース・コードで流通してきたが,バイナリ・コードの流通は活発ではなかった。バイナリ・コードの配布を積極的にしたことがLinuxの成功の鍵だったと言ってもよい。
 ソース・コードの配布,オープン・ソースの考え方はとても大事なものだ。ただ,ソースコードにアクセスするユーザーはほんの一部だ。Linuxのユーザーの9割以上はバイナリにしかアクセスしない。


写真1:講演をするBob Young氏。足もタップ状態で,ノリノリである。写真では見えないが,靴下も実は赤い。
写真2:講演の後報道陣に取り巻かれ,赤い帽子をかぶって写真を撮られつつ,名刺交換に応じるYoung氏。写真を撮る人の数はものすごく,講演が始まってしばらくは客席から「座って下さい」という声も飛んだほどだった。