「受注を焦るあまり、顧客との心の距離が離れていってはいないだろうか」――アイルの串戸一浩マーケティング部本部長は,千葉市・幕張メッセで開催中のNET&COM 2004のフォーラム「SEのための顧客提案術」において,システム提案の場で必要とされるSEの心構えや技術について講演した。串戸氏はこれまで、大手インテグレータが参画するコンペを含め、システム提案活動の約9割を受注に結び付けてきた実績を持つ。

 串戸氏は,「受注の成否はシステム提案の前段階で決まることが多い」と指摘する。「具体的な提案に入る前に『このベンダーに任せれば良い結果が出そうだ』と顧客から期待してもらえるかどうかがポイントになる」。そのためには、提案の前段階で、(1)ベンダーとしての活動スタンスを明確にし、(2)イメージ・トレーニングを積んでおくことが重要、と続ける。

 1点目の「ベンダーのスタンス」として重視すべきは「顧客の立場で顧客の役に立つ提案をすること。それが大前提。その中でベンダーとしてメリットが得られるかどうかを検討する」。自社製品を売りたいから、今月のノルマを達成したいから、とベンダー側の論理で提案しても顧客に見透かされる。たとえ受注に結びついたとしても開発時に大きなリスクを抱え込むことになりかねない。「顧客にメリットがないと判断した場合は、開発の中止や延期を促すこともある」(串戸氏)

 2点目のイメージ・トレーニングについては、「『どうせ受注できないだろう』と、どこか冷めた気持ちで臨んだらまず無理。受注したつもりで本気で提案活動に取り組むことが大切だ」と言う。イメージ・トレーニングは単なる精神論にとどまらない。顧客と会う前日などは、どのように説明しどのように受け答えするかなどを頭の中でとシミュレーションする。「ギリギリまで顧客のために良い提案を考える。その熱い思いが顧客に伝わる」。

 そのほか、いきなりシステム提案の話に入るのではなく、社長の方針や新規事業計画といった世間話から入ることで「顧客担当者とのコミュニケーション」を密にしていくことも大切という。「何気ない会話から、担当者のシステム開発への熱意を感じ取ることができる。これらちょっとした気の使いようで顧客との距離はぐっと縮まる」(同氏)

 串戸氏は「提案内容がベンダー側の論理の押し付けになっていないかも再検討すべき」と注意を促す。通常、ユーザーのRFP(提案依頼書)を基にベンダー側で提案書を作成・提出するケースが多いが、アイルでは提案書を作成する前に必ず「打ち合わせ資料」を作成して,顧客とのディスカッションに臨んでいる。「顧客に1度会いRFPを読んだぐらいでは、顧客の要望を満たす提案など不可能に近い。その段階では仮説を基にした資料しか作れない」と考えるからだ。打ち合わせ資料を基に顧客とディスカッションを数回繰り返し、最終的に提案書としてまとめて顧客に提出する。「ベンダー側が一方的に提案するのではなく、顧客とともに提案内容を創り上げていけるかがポイント。提案書の内容の約8割は顧客の要望や条件で構成されている。ベンダー側からの提案は20%にも満たない」(同氏)

 アイルでは、上記で紹介したような提案活動のプロセスを「ライブ手法(Live style Business Planning Session)」と呼び,全社一丸となって実践している。ライブとは、音楽活動のライブと同義。「ユーザーとベンダーが一緒になって音楽を奏でるようにシステムを構築していく。一方がもう一方を支配する関係ではなく、協調し合う姿勢が大切だと思う」と提案する。

(菅井 光浩=日経システム構築)