ソフトの開発能力を測定するCMM(能力成熟度モデル)取得に動き出すメーカーやシステム・プロバイダが増えている。開発プロセスが改善されていないために,品質の悪化や開発コストの増大などの問題が発生するからだ。経済産業省が政府や自治体のシステム調達の基準として日本版CMMを導入する動きもある。レベル3以上を取得した企業の事例からCMM活動の成功の秘訣を探る。

 「ソフトの開発では何を作るかだけではなく,どのようにして作るかということも重要」。こう語るのは,富士ゼロックスの常川雅博ドキュメントプロダクトカンパニー商品開発統括部Contデバイス&S/W開発統括部マネージャーだ。

 富士ゼロックスではかつて大規模なソフト開発が増えるのに伴い,工数が当初の予定よりも増えるなど様々な問題が表面化した。その原因はプロセスの管理の不備にあった。

 どうしたら開発工程をきちんと管理することができるのか。そんな中で,富士ゼロックスが着目したのはCMMのモデルを活用したソフト開発のプロセス改善だった。

図1●1997年から2001年6月まで世界各国の1018組織のうちレベル3以上を取得したのは3分の1以下(右)*
レベル1からレベル3達成までに,平均4年近くかかる(下)
*米カーネギーメロン大学ソフトウエア工学研究所(SEI)の資料より (日経システムプロバイダ作成)

 CMMとは,米カーネギーメロン大学ソフトウエア工学研究所(SEI)が開発したソフト開発の能力成熟度を測定する品質管理基準。開発プロセスを改善していないレベル1から管理が最も行き届いている最高位のレベル5まで5段階に分かれている(図1[拡大表示])。現在ではソフト開発能力を測る世界的な基準として世界各国で採用されている。

 ソフトの品質管理基準としてはISO 9001が有名。ISO9000シリーズの審査員でもある日本フィッツの山口勝弘ISO9000コンサルティング部長によると,ISO9001とCMMの大きな違いは次の2点だ。(1)ISO9001がソフトだけでなく,ハードやサービスも審査対象にしているのに対し,CMMはソフトのみを測定する,(2)ISO9001が品質取得のための記録を重視するのに対し,CMMはあるソフトの開発過程で得た経験を他のソフトの開発にも生かせるように記録することに重点を置く。

 CMMが日本で脚光を浴び始めたのは昨年夏のこと。経済産業省を中心に官公庁のシステムを調達する際の基準にCMMを導入するという方針を示したことがきっかけになった。

レベル3取得まで平均4年

 日本でも注目され始めたCMMだが,今のところレベル5を取得したのは日本IBMのみ。レベル4を取得したところはなく,レベル3を取得しているのは富士ゼロックスのほか,NEC通信システム(東京都港区,下條佑一社長),東芝,テプコシステムズ(東京都港区,小口俊夫社長),SRAの5社,ソフトに加えてハードの開発プロセスも測定するCMMI(CMM統合)でレベル3を今年1月に日本で初めて取得した日立ソフトウェアエンジニアリングを含めても6社にすぎない。

表1●CMMレベル2,レベル3取得のために要求されるKPA(キー・プロセス・エリア)
(日経システムプロバイダ作成)

 実際,レベル3以上に到達することは極めて難しいといわれている。SEIが1997年から2001年6月まで世界各国の1018組織に対してCMMのアセスメントを実施したところ,レベル3以上を取得したのは33.8%だった。また,各レベルに到達するまでの年月を調べたところ,レベル1からレベル2までが平均24カ月,レベル2からレベル3までが21.5カ月,レベル3からレベル4までが33カ月,レベル4からレベル5までが18カ月かかっていた(図1)。

 とはいえ,これはあくまで平均値。SRAは99年1月からCMMに本格的に取り組み始め,わずか11カ月でレベル2を取得,さらに24カ月後にレベル3に到達した。かたや富士ゼロックスは,95年10月からCMMによるプロセスの改善活動に取り組み始め,レベル2を取得するのに30カ月,そこからレベル3に到達するのに32カ月を要している。この差はどこにあるのか。

 会社設立以来,プロセスを重視した開発体制を敷いていたSRAに対して,富士ゼロックスはCMMの取得を目指して活動するまでプロセス改善に本腰を入れず,実質的に1からのスタートだった。CMMに詳しい業界関係者は「これまでプロセス管理にどれだけ力を入れてきたかで違ってくる」と話す。CMMを取得するには,まず自社の水準を知る必要があるわけだ。

図2●米カーネギーメロン大学ソフトウエア工学研究所(SEI)が開発した
プロセス改善モデルIDEAL

 そのために作成したのがKPA(キー・プロセス・エリア)と呼ばれるCMMを達成するには最低限実施すべき要件だ(表1[拡大表示])。仮に一つでも印を付けられない項目があれば,これまでプロセス改善にさほど本腰を入れてこなかったことになる。

 では,そうした会社がCMMレベル3を取得するのにどうすべきか。例えば富士ゼロックスはSEIが作成したプロセス改善モデルIDEAL(図2[拡大表示])に沿って改善に着手した。IDEALはInitiating(動機付け),Diagnosing(診断),Establishing(計画立案),Acting(実践),Learning(学習)の5段階の頭文字から名付けられたもので,プロセス改善の手本とされている。

 富士ゼロックスはCMM取得を4段階に分けた。最初の動機付けで,まずCMMについての説明資料を作成し,各開発部門で説明会を実施。これは社員にCMMについての理解を深めさせて,プロセス改善活動への意識を高めるのが狙いだった。

(中井 奨)