ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)がエイベックス,東芝EMIと共同で今年4月から稼働させたSCM(サプライ・チェーン管理)システムMusic Expressは,これまで返品が常識だった音楽ソフト会社と販売店との関係を大きく変える画期的な試みだ。

 このMusic Expressは,SMEが2000年5月にスタートしたSony Music Expressというプロジェクトをベースにしたもの。当初,SMEは単独で販売店とのネットワークを構築しようとしていたが,他社と共同で取り組んだほうが販売店にはメリットがあると判断し,エイベックスや東芝EMIに声をかけた。

 システム構築を依頼するにあたり,SMEはコンペを実施し,音楽業界での実績がほとんどなかった新日鉄ソリューションズ(NSソリューションズ)に任せた。なぜSMEは業界が一丸となって取り組む一大プロジェクトを“素人集団”に任せたのだろうか。

 SMEがSCMシステムを構築するうえで最も重視したのは「新しいことにチャレンジして,殻を打ち破ろうとする熱心さ」(プロジェクトを担当したソニー・ミュージックディストリビューションの佐藤朗マーケティング部次長)だった。情報化が遅れている音楽業界では,SCMシステムそのものは先端を行くようなものでなくてもよい。それよりも,業界の常識や経験にとらわれず,新しい視点でプロジェクトを推進できる“熱心さ”が大切だと佐藤次長は考えた。

力の入れ具合は提案書に表れる

 コンペには,NSソリューションズのほかに,大手コンピュータ・メーカー2社と音楽業界のシステムに精通しているシステム・プロバイダが参加した。「4社の提出してきた提案書を1度見ただけで,力の入れ具合がすぐに分かった」(同)。

 例えば,大手コンピュータ・メーカーの提案書は,システムに使うハードの特性に関する情報を中心にしたものだった。「我々は新しいSCMの仕組みを先に決めて,それからハードを決めるつもりでいたため,このメーカーはハードを売りに来たようにしか見えなかった」(同)。

 もう一つの大手コンピュータ・メーカーは内容の濃い提案書を提出してきた。しかし,佐藤次長が考えていたSCMシステムよりも仕様が過剰で,開発費も予算をはるかに超えていた。

 残るシステム・プロバイダは,音楽業界に精通していただけに,そつのない提案をしてきたが,内容に新鮮味がなかった。「言われた通りのシステムを構築します,という受け身の姿勢がありありと見えた」(同)。

 その点,NSソリューションズの提案書は熱意にあふれたものだった。「どこで勉強したのか,業界についての知識があちこちに散りばめられ,驚かされた。内容もオリジナリティにあふれたもので,プロジェクトチームのメンバー全員がディスカッションを重ねたという努力の跡が提案書ににじみ出ていた」(同)。さらに佐藤次長が驚いたのは,SMEが頼んでもいないのに,NSソリューションズが1回目の提案書をブラシュアップしたものを再度提出してきたことだ。「その内容は,我々が目指すものと一致しており,これだと直感した」(同)。

 プロジェクトが進行すると,佐藤次長は直感に間違いがなかったという確信を得た。打ち合わせの頻度と内容,プロジェクトの進行管理,予算内で実現できる機能の選別など,いずれの点についても不満はなかった。「今後,SCMシステムの機能を大幅に拡張をするときには,再びNSソリューションズに声をかける」と佐藤次長は全幅の信頼を寄せている。

(渡辺)