不祥事に揺れる食品業界。その対応策として期待されるのがトレーサビリティ(履歴追跡)と呼ばれる食材追跡システム。この新市場にいち早く食い込んだシステム・プロバイダがいる。彼らの足跡から新しいビジネスへの展開方法を学ぶ。

 「協和香料化学の原材料を使った製品をすべて洗い出せ」。中堅香料メーカー,協和香料化学が無認可の添加物を使った香料を出荷し続けていた事件を受け,食品メーカー各社は製品の点検を急いだ。今年5月31日の事件発覚から3日後に,グリコが11品目の自主回収を決めたのを皮切りに,自主回収へ動くメーカーが相次いだ。協和香料化学は8月末に倒産に追い込まれ,食品メーカーの被害総額も約12億円に膨らんだ――。

 このニュースを東芝テックの流通情報システムカンパニー営業推進統括部総合営業部の鎗田清一郎参事は,複雑な心境で見ていた。というのも,同社が作り上げたトレーサビリティ(履歴追跡)システムの必要性を信じて,食品メーカーに営業をかけた2000年秋の時点では「聞く耳を持ってくれた食品メーカーはほとんどなかった」(鎗田参事)からだ。

 トレーサビリティ・システムとは,製品番号から生産工程をさかのぼって,いつ入荷した原材料を使ったのかまでを管理できるシステムのことだ。システムの価格はケースバイケースだが,東芝テックの場合,ソフトだけで数百万円。ハードやネットワーク,ソフトのカスタマイズなどを含めると最低で2000万円程度は必要になる。

写真●好調な食料品販売を背景に8月期の中間決算で過去最高の経常利益を記録したイオン。
スーパー「ジャスコ」の食肉売り場ではBSE(狂牛病)や履歴情報などを公開。信用向上に貢献している

 「2年前は売れないシステムだったのが,最近では食品メーカーの社長に直接営業すると,その場でプロジェクトをスタートする指示が出されるなど,非常に反応は速い」と鎗田参事は驚きを隠さない。トレーサビリティ・システムは今や,“売れ筋ソリューション”になりつつある。

生産情報の公開を目指す食品メーカー

 「年商50億円以上の食品メーカーは約1000社ある。そこがターゲット」とあるシステム・プロバイダはそろばんをはじく。仮にその3分の1が導入すれば,大きく見積もって,100億円から200億円くらいの市場規模と試算できる。この1,2年で新市場がいきなり出現し,しかも関心度は高い。この新市場で勝ち抜こうと,東芝テック以外でも,アルゴ21やNECソフトといったシステム・プロバイダが続々と名乗りを上げている。

 協和香料化学事件に限らず,基準値を超える残留農薬を指摘された中国生野菜,BSE(牛海綿状脳症,別名狂牛病),遺伝子組み替え食品など,食材の由来に対する問題が次々と発生している。消費者の不安は高まっており,小売業では食品に関する情報公開の動きが急速に広がり始めた。

図1●消費者や小売業者からの情報請求に,いち早く対応できる情報管理体制が求められている

 イオンは店頭でBSEや生産者履歴などを検索できる「お肉の安全確認システム」を2002年2月から店頭に設置。顧客が自ら検索・印刷できるようにした(写真)。また,イトーヨーカ堂や東急ストアなどは野菜の生産履歴をホーム・ページ上に公開し始めた。こうした流れに後押しされるように,食品メーカーも製品の生産情報の公開を目指して動き始めている(図1[拡大表示])。

 キユーピーは9月,トレーサビリティ・システムを開発し,10月から稼働する。ベビーフードを生産している鳥栖工場を皮切りに,全国工場に順次導入する計画だ。「生産管理システムは以前から使っていたが,原材料の受け入れ作業は紙の台帳のままだった。そこを電子化することで,一気通貫で生産情報を配送センターにまでつなげられるようになった」とキユーピーの高山勇技術開発部長は話す。

 マルハも同じく9月にトレーサビリティ・システムを構築することを発表した。11月から稼働体制に入り,台湾産の枝豆などの冷凍食品を皮切りに,中国産の養殖うなぎ,国内外の水産・缶詰などで,生産工場との情報を連携する。工場の情報は,主に販売店向けに公開し,顧客からの問い合わせや販売促進などに役立てる方針だ。

(渡辺 一正)