日本事務器の原田利光は、営業の最前線から退いた今でも「伝説の営業マン」と呼ばれている。現在は製造業向けシステム営業を統括する立場にあるが、数年前までは「封筒を立てられるほど多額の販売奨励金を獲得していた」と噂されていた。そんな評判を本人は「今時、現金支給されるわけがないでしょう」と一笑に付す。

 伝説の営業マンと聞くと、周囲を威圧するようなカリスマ性を備えていると思いがちだが、語り口も風貌もいたって穏やか。社内からも、原田の営業スタイルは“正統派”だと言われている。提案活動で真っ先に手掛けることは、顧客企業の抱える問題点を探り、あるべき姿を思い描くことだ。

 そんな原田のやり方を象徴するのが、インターネットを使った企業間取引の仕組みを97年頃にいち早く医療機器の卸売業者に売り込んだ時のケース。経営陣が居並ぶプレゼンテーションの席で原田は「普及するインターネットへの対応や業務のコスト削減といった効果が期待できるだけでなく、営業担当者が取引先にセールスポイントとしても訴えることができる」と説いた。これが、取引先をライバル企業に奪われないようにするため何か手を打たなければと考えていた経営陣に響いた。原田の提案は採用され、1億5000万円の仕事を受注できた。

 もちろん、顧客に提示する提案内容は、原田一人の力でまとめられるものではない。そのために原田が普段から力を入れているのが、社内でのプレゼンテーションだ。「現在、顧客企業がどのような課題に直面し、どう解決したいのか社内の技術部門に繰り返し説明する。自分のアイデアを実現できるかどうか、ほかに参考事例はないか、アドバイスや情報をもらい提案内容をまとめた」と原田は振り返る。

 現在の原田のミッションは、製造業の顧客を増やすとともに、既存顧客の隠れたニーズを掘り起こすことだ。「製造過程の末端のところまで入り込んでいきたい」と抱負を語る。今でも原田は社内の各技術部門を集め、顧客の抱える問題点をぶつけ「日本事務機として何ができるか」を議論する会議の音頭を取っている。

原田 利光(はらだ としみつ)氏

日本事務器 関東甲信越営業本部
製造装置SI統括営業部 統括部長

1982年に九州産業大学経済学科を卒業。日本事務器に入社し、東京支店プロジェクト営業部で約5年間、牛乳販売店向け業務パッケージの営業に携わる。その後は東京の営業拠点で、主に大手製造業向けの営業を担当。数年前までは、常に販売奨励金の額で1、2位を争う存在だった。趣味はゴルフ、陶芸、釣り。釣った魚の料理はちょっとしたものだとか。



文中敬称略=佐竹