ITサービス業界の2003年7~9月期の業況判断指数は2期 連続で改善した。最悪期は抜け出したが、単価が下落しており、粗利 益率は依然として低いまま。受注は増えているが、楽観視はできない。

図1●ITサービス業界の業況DI*1の変化。業況DIは3年ぶりに2期連続で改善
*今回は88社*2が回答
図2●業態別に見た業況DI。前回の調査に引き続き、ソフト会社と販社の業況DIはそろって上昇
図3●業態別に見た売り上げDIと粗利益率DI。売り上げDIは改善したが、粗利益DIは再び悪化
図4●業種別のハード/ソフト部門の売り上げDIとサービス部門の売り上げDIの推移。受注増を反映し、いずれも前回よりも改善
図5●ユーザー企業の情報化投資意欲に対する見方。顧客の投資意欲は2年3カ月ぶりに20%を超えた
 本誌が有力ITサービス企業の協力を得て四半期ごとに実施している「ITサービス業の業況調査」は今回で20回目を迎えた。業況DI(ディフュージョンインデックス)はマイナス1と、19回目の前回調査(2003年4~6月期)のマイナス16に比べて15ポイント上昇し、3年ぶりに2期連続で改善した。

 業況DIは2000年7~9月に記録したプラス30をピークに下降トレンドを描いてきた。ここ1年余りに限って見ると、業況DIは一進一退を繰り返しながら、悪化の度合いを強めていた。2002年4~6月期に回復の兆しを見せたものの、2002年7~10月期にはマイナス41と底割れした。翌2002年10~12月期に若干ながら好転したが、2003年1~3月期に再び悪化し、マイナス46と過去最悪の記録を更新した。

杞憂に終わった最悪記録の更新

 わずか1年間に2度もワースト記録を塗り替えたため、前回調査した2003年4~6月期は前々回(2003年1~3月期)に比べて大幅に改善したにもかかわらず、2003年7~9月期に再び下落するのではないかという懸念もあったが、杞憂に終わった。

 業態別に見た業況DIにも、景況感の改善が表れている。今回の調査でソフト会社と販社の業況DIの数値がそろって前回の調査に続いて上昇したことだ。販社の業況DIは4四半期連続で改善し、ソフト会社の業況DIは2四半期連続で前回の数値を上回った。98年9月にITサービス業の業況調査を始めて以来、ソフト会社と販社の業況DIが2四半期を超えて改善を続けているのは初めて。

出遅れたソフト会社も回復基調に

 前回の調査で業態別に見た業況DIはそろって改善したとはいえ、販社に比べてソフト会社の景況感の改善は遅れていた。販社の業況DIは2002年7~9月期に記録したマイナス46を底に上昇に転じ、調査を実施するごとに改善したため、2002年7~9月期に底入れしたと確認することができた。しかし、ソフト会社の業況DIは2002年10~12月期に上向く兆候を見せたものの、2003年1~3月期にマイナス63と最悪の記録を塗り替えた。2期連続で改善したことによって、ようやくソフト会社も回復軌道に入ったと考えられる。

 業況DIが改善したのは、顧客からの引き合いが増えているからだ。ITサービス業界からは、それを裏付ける声が聞こえてくる。「首都圏を中心にした顧客からの問い合わせが増え、受注量はまずまずの水準に達した。半年前に比べて顧客の投資意欲は間違いなく高くなっている」(ソフト会社)、「コストダウンの効果がはっきりしているIP(インターネットプロトコル)電話やIP-VPN(仮想私設網)に対する需要は根強い。2003年4~6月期に比べて一段と高くなっている」(販社)。

 業態別に見た売り上げDIにも、受注が増加している兆候が表れている。販社の売り上げDIは30ポイントと大幅に上昇したほか、前回の調査で37ポインと大幅に上昇したソフト会社の売り上げDIは、息切れすることなく、5ポイント増えた。

 ハード/ソフト(コンピュータ、周辺機器、パッケージソフト、ミドルウエア)部門の売り上げDIと、サービス(システム企画・設計・開発、保守、サポートサービス)部門の売り上げDIを見ても、受注の増加が分かる。

 今回の調査では、ソフト会社のハード/ソフト部門の売り上げDI、ソフト会社のサービス部門の売り上げDI、販社のハード/ソフト部門の売り上げDI、販社のサービス部門の売り上げDIがすべて改善している。その結果、2年3カ月ぶりにすべての指数がマイナス値でなくなった。

粗利益率DIは前回に比べ悪化

 業況DIと売り上げDIを見る限り、景況感はITバブル後期の2000年下期やその余韻が残る2001年上期とほとんど変わらない水準にまで改善している。

 景況感が大きく好転した背景には、IT投資に慎重だった顧客の姿勢が変わったことがある。顧客の情報化投資意欲が「高まっている」という回答は今回の調査で13ポイント上昇し、2年3カ月ぶりに20 %を超えている。

 とはいえ、今回の調査ではITサービス業界の先行きに必ずしも楽観できない結果も得られた。具体的には、粗利益率DIをはじめ、ソフト会社の粗利益率DI、販社の粗利益率DIがそろって前回の調査に比べて悪化していることだ。

 粗利益率DIは前回の調査で23ポイントと大幅に上昇したが、今回の調査では8ポイント悪化してマイナス11になった。販社の粗利益率DIは2002年7~9月期に記録したマイナス18を底に調査を重ねるたびに改善していたが、今回の調査では5ポイント悪化した。それでも、販社の粗利益率DIはプラス値を維持しているが、ソフト会社の粗利益率DIは相変わらずマイナス値で、2002年7~9月期とほとんど変わらない水準まで悪化している。

 粗利益率DIが悪化した最大の要因は、顧客が価格に敏感になっていることにある。「受注量は満足できるところまで回復したが、受注単価が現在の水準まで下落するとは考えていなかった」(ソフト会社)や「これまで無関心だったソフトの価格に顧客がメスを入れ始めた。時にはハードよりも厳しい値下げ要求をしてくる」(販社)など、ITサービス業界からは予想を上回る速度で下落する価格に戸惑う声が聞こえる。

 あるソフト会社の幹部は「これまでソフト開発費について顧客は随意契約を結んでいた。価格競争と無縁の聖域だったが、ここにメスを入れるため、競争入札に切り替える顧客が増え始めている」と内情を明かす。

投資意欲が再び低下する恐れも

 価格の下落を招く要因は、顧客が価格に敏感になったことだけではない。需要は回復しつつあるが、発注するのが一部の顧客に限られていることも価格下落に拍車をかけている。顧客の情報化投資意欲を見ると、「変わらない」という回答は8ポイント増えて75%と過去最高を記録した。

 ある販社の幹部は「ITサービス業界にとって最大の顧客である金融機関の投資は依然として低迷している。回復はまだら模様で、情報化投資に意欲を見せるのは、国際競争力のある製造業など一部の顧客にすぎない。限られた顧客を奪い合うので、どうしても価格競争が発生する」と解説する。

 最悪期を抜け出したITサービス業界だが、需要の回復が息切れする恐れもある。今回の調査で数値が上昇した最大の要因は、顧客の景況感が好転したことにある。日銀が発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示すDIが大企業製造業で前回の調査に比べて6ポイント上昇した。改善は2四半期連続で、2年9カ月ぶりにプラスに転じた。この景況感の改善は、株価回復に加え、輸出頼みの色彩が濃い。

 主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)の共同声明をきっかけに進んだ円高を織り込んでいないため、輸出主導の回復基調に水を差すかもしれない。そうなると、顧客の情報化投資意欲は再び低下する可能性はある。ITサービス業界の先行きには依然として不透明感が残る。

調査の概要

 「ITサービス業の業況調査」は、企業向けIT市場の景気動向のすう勢を把握することを目的に、本誌が四半期ごとに実施しているアンケート形式の調査。今回は2003年9月中旬に上場しているシステムインテグレータやディーラー、それらに準じる会社など計121社にアンケートを依頼し、88社から回答を得た(回答率は73%)。このうち、ソフトハウスや保守・サービス会社などサービス販売を主体とする「ソフト会社」が54社で、コンピュータ商社やディストリビュータなど製品販売を主体とする「販社」が34社だった。

 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている指標。この調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。


山根 太郎