岩本は入社9年目の32歳。電通国際情報サービス(ISID)の製造業向け営業部門の最年少のグループマネージャーで、カメラメーカーやプリンターメーカーなどを担当する。部下の半数は入社4年に満たない若手。深夜残業も厭わないが、岩本は物足りなさを感じている。「どうすれば部下が営業という仕事を好きになってくれるのか四六時中考えている」と話す。

 岩本自身は理系出身者だが、営業職にあこがれていた。「製品自体の魅力に加え、人間性も評価してもらい、最後に『お前だから買ったんだ』と言われたかった」。実際、そんな経験を幾度となく味わった。「その喜びを部下にも味わってもらいたい」。思うように受注できず苦悩する部下の話を寸刻を惜しんで聞くのもそのためだ。

 岩本自身、営業マンとして顧客のもとを訪ねていた頃は苦労の連続。今でも鮮明に覚えているのは、有力顧客であるキヤノンを担当した時のこと。入社3年目だった岩本は、設計部門に3次元CAD(コンピュータを使った設計)システムの売り込みを始めた。わずかなつてを頼って、設計部門をサポートする情報システム部門に足繁く通った。人脈を少しずつ広げ、設計部門の担当役員に営業攻勢をかけようとした矢先、ライバル企業も別の部署を経由してCADシステムの提案を始めた。

 顧客の意見が2つに割れた。ライバル企業のCAD導入を主張する部署から白い目で見られた。それでも弱音を吐かなかったのは「お客様の中に私の提案を支持してくれる人がおり、是が非でも彼らの役に立ちたかったから」と振り返る。連日、ISIDの提案を推してくれた設計部門長や情報システム関連部門に通い、情報交換を繰り返した。彼らとの間に“同志意識”が芽生えた。最終的に、それぞれの部門が別々のCADシステムを導入することで決着した。

 この時の苦労も今となっては良い思い出。ライバル企業のCADを推した人からも「あの時は大変だったね」と話すまで関係を修復した。そして、現在、部下がCAE(コンピュータを使ったエンジニアリング)を提案している。

岩本 浩久(いわもと ひろひさ)氏

1971年7月埼玉県浦和(現さいたま)市生まれ。上智大学理工学部物理学科を卒業後、95年に電通国際情報サービスに入社。製造業向け営業一筋で、2001年4月から現職。趣味は熱帯魚の飼育。最近は部下の勧めで、テニスで汗を流す。鞄の中にあった新渡戸稲造の本は、「人生の勉強になるから読め」と顧客に薦められて借りたもの。



=文中敬称略=(渡辺)