営業担当者にとって、提案書は顧客に自己アピールするための有力な道具。提案書の良しあしによって、受注できるかどうか大きく左右されると言っても過言ではない。にもかかわらず、単なる製品の紹介で終わっている提案書や、ポイントが明確でないため顧客が理解するのに一苦労する提案書など、顧客の立場で書かれていない提案書が少なくない。これでは提案内容が充実していても、受注機会をみすみす逃してしまう。そこで、数々の商談をまとめているカリスマ営業マンの提案書を入手し、受注に成功するための提案書を作成する鉄則を探った。

第1部 読まれないのには理由があった

提案書を持参してプレゼンテーションに臨んだのに、顧客の関心を引くことができなかった――。そんな事態を防ぐにはどうすべきか。顧客に読まれる提案書を作成する際の心構えについて3人のカリスマ営業マンが語った。

鉄則1 システムではなく、「課題」解決策を売り込め

NTTデータ 法人ビジネス事業本部 建設ビジネスユニット

水沼憲一 課長

1989年にNTTデータ通信(現NTTデータ)の第1期生として入社。ERP(統合基幹業務システム)の開発・営業などを経て2000年からメーカーや建設業界の営業を担当。建設ビジネスユニットは、数十億円規模の案件をいくつも受注し、社内でトップクラスの成績を誇る部署に。

図●情報システムを活用して経営・業務改革を実現することを示した提案書の流れの一例顧客の経営課題のポイントを明確にしたうえで、なぜこのシステム構成が必要になるかを論理的に提案している

 「提案書で差をつけるポイントは、何を言いたいのかという訴求ポイントをはっきりと顧客に伝えられるかどうかにかかっている」。NTTデータの水沼憲一は、提案書作成の心構えについてこう語る。そのため、提案書を書く前に、顧客が求めるものは何かを把握することに全力を注ぐという。

 ただシステム構成を書いて「どうですか」とお伺いを立てるだけでは、顧客から評価を得ることはできない。「『なぜこのシステム構成がベストなのか』を論理的に説明したうえで、顧客に『だからこうなるんですね』と納得してもらえなければならない」と話す。

 民営化を控えたある公共機関の商談はその典型だ。会計システムの導入を検討していたので、ERPパッケージを提案しがちだが、水沼はあえてLinuxをベースにした会計システムを手作りで構築することを提案した。パッケージに業務をうまく合わせることができれば、効率化することはできるが、この公共機関の場合は必ずしもそうではなかった。公共機関が民営化した場合、業務を無理にパッケージに合わせようとすると、パッケージが原形をとどめない形になってしまうことが事前に予想できたからだ。

 論理的に説明することを重視しているため、細かいシステムの話には一切触れないこともあるという。水沼は「システム構成がどうだというのは、実際の設計に入ってからの話で『御社は、経営課題をどのように考え、ITを使って会社をどう変えたいのですか』と提案するのが基本だ」と話す。

 経営状況によって、経営スタイルは変わるし、それに対応してシステムへの投資状況も変わる。現状の会社の経営状態から見てシステムはどうか、企業のITインフラとして将来の拡張性を含めたシステム構成になっているのか、という側面から評価しながら、提案内容を論理的に伝えることを水沼は心掛けている。

 論理的に説明するとともに、顧客が気付かない視点に立って提案することも大切だという。業務ノウハウは顧客のほうが把握している。場合によっては、情報システムについても、顧客のほうが詳しいこともある。だから「当社は、違った視点で見てますよ」という提案ができているかどうかが問われる。「顧客が求めるものに対し、『こうやればもっと効果的です』とか、『こういう視点で考えるべきではないですか』と、進言できることが提案力ではないかと思う」と水沼は言う。

 提案書の構成は、(1)システム導入の背景と目的、(2)現状の主要な問題点と検討課題、(3)実施施策と期待される効果、(4)目指すべき情報化のイメージ、(5)システム構成と方式の考え方、(6)システム導入展開の考え方、(7)今後の運用・保守の考え方、(8)プロジェクト推進体制、(9)システム構築スケジュール、を基本にしている([拡大表示])。

 ただし、この構成は絶対的なものではないという。「提案する相手によって、ケースバイケース。相手が役員か現場の担当者かによっても変わってくる。常に一定の提案をするわけではなく、顧客の求めるものや、提案するシステムによって、提案書の構成は柔軟に変えている」と水沼は語る。

鉄則2 システムの「価値」の徹底検証を

TIS 金融カード第2事業部 ファイナンシャルシステム営業部

守屋元雅 部長

IT業界で営業畑を歩み続け、1999年にTISに入社。同時に当時新設されたファイナンシャルシステム営業部長に就任。TISの収益の大きな柱である金融・カード業界の新規顧客開拓や既存顧客のフォローまで営業活動の中心的存在として活躍している。

 TISの守屋元雅は、金融機関にマーケット情報などを提供しているサービス会社から情報提供用システムの再構築の受注に成功したばかり。この時の提案書はA3判という“常識外れ”の大きさだった。

 A3判を利用したのには理由がある。システムを再構築するに当たって、この顧客はサービスを利用している金融機関数十社に対してヒアリングを実施した。こうして集められた金融機関の意見や要望をもとにシステム構成を描くと、最終的にシステム構成は十数パターンに及んだ。

 守屋は「さまざまな金融機関の利用を想定したので、システム構成のバリエーションが増えた。そのバリエーションをすべて見せないと、顧客に納得してもらうことはできないと考え、A3判を活用した」と振り返る。

 とはいえ、営業攻勢をかけ始めた頃は、システム構成のバリエーションは数パターンしか用意していなかった。しかし、顧客と議論を重ねるうちに、数パターンでは不足することが分かった。

 提案書を作成する準備段階で、守屋は疑問に思う点をすべて顧客に指摘してもらい、議論を尽くすことを最重視した。顧客との打ち合わせが終わるたびに再度資料をまとめ、「このシステム構成のパターンにすれば、金融機関に対して提供するサービスはこうなる」といった具合に、一つひとつのシステム構成についてシミュレーションしていった。「このパターンを採用すると、かえって費用が高くなる」などと、個々のシステムについて詳細な説明を付け加えた。

 顧客と何度も議論した結果、サービスを利用する金融機関が新規顧客か既存顧客かによってニーズは変わってくるし、クライアント端末から大型コンピュータへの接続形態も金融機関ごとに微妙に異なることが分かった。システム構成のパターンも数パターンでは足りず、発生する費用もパターンごとに異なった。

 「顧客から『こういう提案がほしかった』と言ってもらいたかった。だから、思い付く限りのすべてのシステム構成を列挙し、そのうえでエンドユーザーである金融機関に本当/に役立つシステムであるかどうか顧客と一緒に徹底的に検証した。結果として、十分に意思疎通が図れ、提案書にはそれが反映できた」と守屋は胸を張る。

=文中敬称略=(中井 奨)