2003年10~12月期の業況判断指数は悪化し、本格的な
回復には至っていない。アウトソーシングサービスなどは好調だが、
需要が回復しない分野も多く、企業間格差が広がり始めている。
悪化したのは、業況DIだけではない。売り上げDIも前回に比べて15ポイント悪化してプラス19になった。前々回の19回目の調査(2003年4~6月期)では業況DIと売り上げDI、粗利益率DIがそろって改善し、前回の調査では業況DIと売り上げDIが上昇したが、今回の調査で改善したのは粗利益率DIのみにとどまった。
前回に比べて慎重な見方が増加
ITサービス業界の今後の動向を占ううえで、今回の調査は大きな意味を帯びていた。今後の見通しをめぐって、前回の調査では意見が対立していたからだ。本格的な回復軌道に乗ったという強気な意見がある一方で、本格的な回復には時間を要するという弱気な意見もあった。今回の調査結果を見る限り、本格的な回復には至っていないと判断したほうがよさそうだ。
ITサービス業界からも慎重な意見が聞こえる。前回の調査では「半年前に比べて顧客の投資意欲は高くなっており、受注量はまずまずの水準に達した。上期よりも下期のほうが売り上げが大きいという経験則に基づけば、景況感は一段と回復する」(ソフト会社)という楽観的な見方が多かった。しかし、今回の調査では「顧客からの問い合わせは増えているが、なかなか商談は成立しない。底入れしたものの、本格的な回復軌道に乗ったとは言い難い」(ソフト会社)といった慎重な意見が目に付いた。
業態別に見た業況DIにも、本格的な回復には至っていないと判断したほうがよい兆候がある。ITサービス業の業況調査を始めて以来、前回の調査では販社とソフト会社の業況DIが初めて2四半期を超えて改善したが、今回の調査では業態によって明暗が分かれた。販社の業況DIはプラス6と一段と改善しており、依然として回復軌道に乗っているが、ソフト会社の業況DIはマイナス16と、前回に比べて12ポイント悪化した。
需要の回復にばらつきが
それにしても、なぜ業況DIが悪化したのか。前回の調査で顧客の情報化投資意欲に対する見方を尋ねたところ、「高まっている」という回答が13ポイント増えて22%と、2年3カ月ぶりに20%を超えた。顧客の投資意欲が旺盛であれば、業況DIが一段と改善してもおかしくなかった。
業況DIが悪化した理由について様々な意見があるが、今回の調査結果やITサービス業界の声をまとめると、製品やサービスによって需要の回復状況に違いがあることが大きな要因になっているようだ。
「アウトソーシングサービスを除き、需要が回復したとは言えない」(ソフト会社)、「IP(インターネットプロトコル)テレフォニーやセキュリティ製品に対する需要は旺盛だが、ほかの製品は低調」(販社)といった声に代表されるように、需要の回復はまだら模様。そのため、アウトソーシングやIPテレフォニーなど成長分野に強いITサービス企業の業況判断は良くなるが、そうでないITサービス企業は依然として厳しい見方をしている。
既存顧客の投資意欲も影響を
業況DIが悪化した要因は、それだけではない。主要顧客のIT投資意欲が旺盛かどうかによってもITサービス企業の業況判断は大きく変わった。ITサービス企業は一般的に営業力が弱いため、既存顧客による売り上げの比率が高い。IT投資に前向きな顧客と取引があるITサービス企業は「業況が良い」と判断しているのに対し、そうでないITサービス企業は需要回復の恩恵をいまだに受けていない。
実際、ITサービス業界の幹部から格差があることを裏付ける声が聞こえる。「地域間の格差が大きい。東京では投資意欲が高いが、地方は相変わらず冷え込んでいる」(ソフト会社)や「IT投資意欲が高いのは、国際競争力がある大手メーカーにすぎない」(販社)といった意見が増えた。
ハード/ソフト(コンピュータ、周辺機器、パッケージソフト、ミドルウエア)部門の売り上げDIと、サービス(システム企画・設計・開発、保守、サポートサービス)部門の売り上げDIを見ても、需要の回復はまだら模様であるという実態が浮き彫りになった。
ソフト会社のサービス部門の売り上げDIと、販社のサービス部門の売り上げDIはいずれも改善したが、ハード/ソフト部門の売り上げDIはソフト会社も販社もそろって前回よりわずかながら悪化した。
ある販社の幹部は「IPテレフォニーなどを除き、ハード/ソフト部門は基本的に縮小傾向にある。それでも、2003年4~6月期と2003年7~9月期が上向いたのは、2003年1~3月期が最悪だったからだ。さすがに2003年10~12月期までその勢いは続かなかった。これからもサービス部門の成長がハード/ソフト部門の成長を上回るという状況が続くと思う」と解説する。
最悪期を抜け出し、底離れ局面にあることは確実なITサービス業界だが、回復が息切れする懸念は払拭できない。顧客の先行き見通しが厳しくなっているからだ。日銀が昨年12月中旬に発表した企業短期経済観測調査(短観)によると、企業の景況感を示すDIは大企業製造業でプラス11と、前回の9月調査に比べ10ポイント改善したが、今年3月までの先行きについてはプラス8と悪化、今後の景気に慎重な見方が根強い。
楽観的な先行き見通しが多数派
前々回と前回の調査でITサービス業界の業況DIが急速に改善した最大の要因は、大企業製造業を中心とした顧客の景況感が大幅に改善したことにある。顧客が先行きに慎重な見方をしているため、回復が腰折れになる懸念も完全には払拭できていない。にもかかわらず、今回の調査では「顧客の情報化投資意欲は前回よりも一段と高まっている」と期待を寄せるITサービス企業が増えた。顧客との認識の差が次回の調査に悪影響を及ぼす可能性も否定できない。
期待に反して今回の調査結果は悪化したが、唯一明るい材料は粗利益率DIが7ポイント改善したことだ。牽引役になったのは、ソフト会社の粗利益率DIで、前回に比べて15ポイント上昇している。
粗利益率が向上したと回答したあるソフト会社の幹部は「収益の確保が難しくなってきたシステムインテグレーション(SI)事業に代わって、アウトソーシングに軸足を移してきたことが功を奏し、粗利益率が向上した。SI事業に依存したままだと、受注単価が下落しているので、粗利益率は悪化しただろう」と内情を明かす。有望な成長分野に打って出たことが“勝因”につながった格好だ。
次回の調査では、成長分野に強いITサービス企業とそうでない企業の格差が一段とはっきりした形で現れるかもしれない。
調査の概要「ITサービス業の業況調査」は、企業向けIT市場の景気動向のすう勢を把握することを目的に、本誌が四半期ごとに実施しているアンケート形式の調査。今回は2003年12月上旬に上場しているシステムインテグレータやディーラー、それらに準じる会社など計127社にアンケートを依頼し、96社から回答を得た(回答率は76%)。このうち、ソフトハウスや保守・サービス会社などサービス販売を主体とする「ソフト会社」が63社で、コンピュータ商社やディストリビュータなど製品販売を主体とする「販社」が33社だった。 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている指標。本調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。 |