過去3年もの間、企業のIT支出不況に苦しめられてきた業界の中で、よくやっているのが米IBM。ハード、ソフト、サービス、半導体など、IBMはいくつかの市場で首位を保ち、かつグローバルな存在であるため、IBMの成績でIT業界の健康状態が分かる。だが、IT市場の回復の兆候を、IBMの業績から見ることはできなかった。同社の04年第1四半期の売り上げは実質為替ベースで3%増にとどまった。このためIBMの株価は、IT市場の回復ペースが遅いことを憂慮した投資家の意向を反映して、業績発表翌日に3%落ちた。

 IBMの1株利益は18%上がり、純利益は16%増えていた。だが、大部分はコストカットや、業績の悪いビジネスの切り離し、知的所有権(IP)の収入、大規模な買収などで繕ってきた。IBMのこの“業績戦略”もほぼ限界に達している。大規模な買収は見られず、IPの収入も継続的に減少している。収入に影響を与える潜在的なターゲットも、ラショナル・ソフトウエアを21億ドルで買収してから姿を消した。さらに、IBMの半導体部門は、慢性的な歩留まりの低さに悩まされている。半導体業界には「IBMが半導体部門の売却先を探している」との噂が流れ「米インテルに断られた」と尾ひれまで付く始末だ。

 IBMの最大のビジネスは全収入の半分を占めるサービスである。ところが、02年10月に買収したPwCCの売り上げへの貢献が終わり、第1四半期は実質1%増にとどまった。ハードは10%収入が増えたが、これは米サン・マイクロシステムズが持つサーバーシェアの奪取によってもたらされたものだ。ソフトが3%伸びたことが特筆されるが、これも1年前に買収したラショナルが一部で寄与している。

 このように、IT業界の健康度チェックのバロメーター役であるIBMの直近の本業は、ITアナリストたちが言うように、決して業界の先行きの明るさを証明するものではなかった。では、第1四半期に将来の予見や明るい題材が何もなかったのかというと、そうでもない。IBMが3%売り上げを伸ばしたソフトウエア分野で、2つの動きがあった。1つは、ベンチャーキャピタルのソフト分野への投資が、3四半期ぶりに首位に返り咲いたこと。もうひとつは、ソフト会社への投資判断の基準に新指標が投入されたことである。特に、ソフト会社の評価指標は将来のトレンドになりそうだ。

 全米ベンチャーキャピタル協会など3社がまとめた第1四半期の投資先調査によれば、ソフトウエア企業が第1四半期に集めた投資額は、前年同期を13%上回り、前2四半期連続トップだったバイオ技術分野を逆転した。ソフト分野への投資額は全体の3分の1を占めるという。ソフトに比べ額はずっと少ないものの、ITサービスが21%増、ハードは44%も増え、IT業界にとってこれらの増加は良い前兆となった。

 一方、オンデマンド時代の到来を見越した「オンデマンド指標(MLODI)」を米メリルリンチが立ち上げた。5月末にも上場予定のASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)、米セールスフォース・ドットコムを踏まえたもの。バブル崩壊で冷え切ったASPへの投資を盛り返そうと狙った。永久ライセンス収入モデルを踏襲する従来のソフト会社は、巨額の前払い金を受けたときに売り上げが立つが、一度契約ペースが落ち込むと大幅な収入ダウンを招く浮沈が激しい業界。これに対し、毎月顧客が使った分だけ売り上げを計上するユーティリティ方式のソフト会社は、額は少ないながらも着実に積み上げていく確実性が売りだ。

 遠からず全ソフト会社がこの方式に転じると見られるため、メリルリンチはオンデマンド度を0~100で表した。100が100%オンデマンド収入のソフト会社という具合に移行努力が分かる。投資家はそれを見て判断する。サービス更新率や解約率も重要な判断要素だ。オンデマンド方式のソフト会社は毎月、顧客のビジネスから稼がなければならないが、従来の悪魔的なライセンス収入モデルよりは、ずっと健康的でエキサイティングである。

(北川 賢一=主席編集委員)