携帯電話が高機能化し、モバイルソリューションとして積極的に企業に提案する好条件が整ってきた。しかしモバイル活用の提案は、先進ユーザーへの成功商談が増える一方で、「無関心層には全く売り込めない」商談であるのも事実。ではどうするか。提案営業で先行するITサービス企業の取り組みや、ユーザーの導入事例には、潜在顧客を攻略するためのヒントが隠されている。その3つのヒントに迫る。

 業務へのモバイル活用を、企業に提案する好機が到来している。好機を演出するのが、多機能かつ処理性能が高い携帯電話の普及だ。

 システム構築/ソフト開発ベンチャーのエー・エス・ディ(ASD、神奈川県横浜市)の内山岳彦社長は、「伸び悩んでいたASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービスの契約企業数が、この1年で10倍近く増えた」と笑みを浮かべる。同社が工務店などに向けて、画像情報を共有できるモバイル対応のASPサービス「目視録」を始めたのは2001年のこと。1年前まで契約数は数十社に過ぎなかったが、昨年後半から急増しこの8月には400社を超えた。その最大の要因は「カメラ付き携帯電話が、通信速度や料金も含めて、業務に使えるとの認知が進んだから」(内山社長)だ。以前は、PDA(携帯情報端末)にモバイル通信カードなどをつないで使う利用方法が主だったが、「中小の工務店には導入の敷居が高った」(内山社長)と振り返る。

 目視録は、注文住宅の建築作業や建て付け具合を発注者に公開して顧客満足度を高めたいという、工務店のニーズをとらえた。ASDはさらに顧客層を拡げるべく、サービスの機能を拡張し、スーパーなどの店舗管理や機器保守業務への展開を図っている。

全社規模でモバイル導入

 ASDのように、離陸期を迎えたモバイル商談で活気付いているITサービス企業は多い。ASP型のゲートウエイサービス「モバイルコネクト」を提供するNTTコミュニケーションズは、「昨年後半から、今年度の導入に向けた商談や問い合わせが急増」(プラットフォーム技術開発部モバイルコネクトプロダクトオーナーの上原恭夫氏)し、7月末時点の契約ID(エンドユーザー)数は7万件と1年前から倍増した。最大のユーザーは、2003年6月にサービスを導入した全日空グループだ。現在、客室乗務員などのスタッフ1万3000人が、携帯電話を使って勤務予定や社内情報を共有している。

 携帯電話サイト向けパッケージ「MCAP」を販売するアイ・ティ・フロンティアも、「サイト運営企業に加えて、一般企業が社内業務に活用する事例が増えてきた」(ソリューション推進本部マーケティング推進部の丸山三生担当部長)と、需要の広がりに手応えを感じている。MCAPは、パソコン向けWebコンテンツを様々な端末に向けて最適に変換する機能を備える。価格の手頃さが受けて、業務向けソリューションへの活用も進んでいるという。

多機能端末が2万円以下で

 こうした昨年からのモバイル商談をけん引するのは、携帯電話の高機能化だ。進化は今も続いており、カメラ機能に続き、GPS(全地球測位システム)、2次元バーコードの読み取り、非接触型ICカード「FeliCa」といった機能を、次々と取り込んでいる。

 新機能の業務への活用も始まっている。先のASDは、KDDIが提供するGPS搭載の第3世代携帯電話を採用。ゼネコンやNPO(非営利組織)と提携して、河川流域や土木施設の画像情報を収集・共有する別のASPサービスも始めた。NTTドコモが7月に発売したFeliCa搭載機は、電子決済に加えて、社員の入退場管理やマンションの鍵など、企業が様々な認証手段として採用し始めている。

 もちろん、画面サイズや文字入力の制約が小さいノートパソコンやPDAの活用提案も健在だ。ただし導入コストでは、最新機種でも1台2万円以下で済む携帯電話にかなわない。携帯電話が多機能化したことで、ようやく予算や業務に応じて最適な端末を選び、「全社員に1人1台」の現実的なソリューションを提案できる環境が整った。

 相次ぐ、定額制のパケット通信料金メニューも追い風だ。定額制は「企業が予算を確保しやすく、費用対効果も測りやすいという点が受けている」(DDIポケットのソリューション営業部NA営業第2グループの岩田俊祐課長補佐)。従来からのDDIポケットや同社と提携する日本通信などのPHSサービスに加え、2004年からはKDDIやNTTドコモが提供する第3世代携帯電話サービスにも定額メニューが加わった(電話機での通信に限る)。

(玄 忠雄)