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 「ソフト業界を襲った2大買収劇は、水の中に血の匂いをまき散らすようなものだ」とサン・マイクロシステムズの幹部が話す。サメがIBM なのかマイクロソフト(MS)なのか、日本やアジア企業を巻き込むものなのか予断できない。しかし05年以降、ソフト・サービス業界に大型M&A(企業の合併&買収)の嵐が吹くのは止められない。サメ発言をしたサン自身でさえ、狩人か獲物のどちらかになる可能性があるのだ。

 ソフト業界での大型M&A はこれまでほとんどなかった。ソフト企業は普通、腕一本に頼って栄えるか、滅亡するかの2つしかなかったからだ。この業界の買収はノウハウを獲得したりニッチを埋めるために、大手が小さなソフト企業を飲み込むケースが多かった。例えば、米IBMは最近2 年間で30社ものソフト・サービス企業を90億ドルで買収している。

 今回の100億ドル超の大型M&A にも背景がある。90年代のインターネット成長期におけるIT 勢力は、シリコンバレーのハードやソフト企業だった。彼らはインターネット技術を買わない旧い企業に引導を渡す「新エコノミー」に武器を供給する武器商人であった。しかしバブルが弾けると、市場の勢力図はIBM のサム・パルミザーノCEO によると「顧客に大きく傾いた」

 この買い手市場を逆転する兆しは当分表れそうにない。世界市場の成長は、米フォレスタ・リサーチによれば05 年も4 %増に留まる見込みだからだ。今のユーザー企業は、より安価で統合された簡単なIT を求めている。オラクルやシマンテックの企業合併は、このトレンドに沿い、コスト削減と製品のバンドル拡大を要求する顧客に動かされてのものだ。IT ベンダーが各種のパーツを納め、顧客がそのパーツを仕方なく自分でつなぎ合わせていた時代は既に過去のものとなった。オラクルはピープルソフト買収で、業務ソフトの適用範囲の拡大を図る一方5000 人を削減し、かつ自社データベース向け業務ソフトの需要拡大を目論む。

 ソフト業界再編はこのようにビジネス市場で起こる。MS が独占する消費者市場で再編の確率は低い。ビジネス向けは「業務ソフト」と「インフラソフト」の2 分野ある。そしてM&A の動きは、ミドルウエアやOS などインフラソフトで起こるだろう。業務ソフトは、独SAP とオラクルによる寡占状態が完成し、再編が終わりに近づいたからだ。再編の中心はIBM とマイクロソフトとなろう。両者の周囲を多くの企業が取り巻いているためだ。IBM 周辺の企業はLinux をはじめとしたオープンソースを好む傾向があり、一方MS 回りの企業は、Windows をベースにしたソフトを使っている。

 再編の1 つのシナリオは、IBM とマイクロソフトが周囲にある小さな企業を飲み込んでいくというもの。中規模の企業もいくつか買収されるかもしれない。Linux サポート企業で既にIBM が株式を持っているノベルなどだ。しかし、再編が急激すぎると、規制当局や顧客、パートナーなどから憂慮を買う。マイクロソフトは、NetWeaver でインフラソフトへ拡張したSAPの買収を検討したが、ややこしいので断念した。

 中規模ソフト企業を買収することでIBM やMS と比肩する企業になるシナリオもある。米HP とオラクルは、過去何回かIBM とWeb サーバーで競うBEA システムズとの合併の可能性を検討してきた。だが、HP は事業フォーカス問題で投資家から圧力がかかっているし、オラクルはしばらく手一杯だ。そこで浮上するのが中堅IT 企業の合併シナリオ。例えば、サンがSolaris と競合するLinux のレッドハットやノベルを買うのは理に適う。同様に、VM ウェアなど4 社を合併した米EMC も、さらに多くの企業を買収する可能性もある。またシマンテックとベリタスのように共通点がない企業間でも、規模の経済を追求する合併があるだろう。

 確かなことは、ソフト・サービス業界の再編は今後数年続くことだ。再編で先行するハード分野ですら、まだ途中の段階にある。かなりの変化が予測される。水中にはまだまだたっぷり血が流れることだろう。

(北川 賢一=主任編集委員)