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 粉飾決算事件の余波が続く中、「口座貸し」などの取引に社内ルールを設ける企業が相次いでいる。会計監査の厳格化を先取りした動きだが、営業現場に「利益重視」を浸透させる転機にもなりそうだ。



 「必要とされて行った商取引ではあるが、それは我々の本業ではない――。こう判断し、一部取引の売上計上方法を改めた」(TISの岡本安史企画部長)。

 ITサービス業界で、売上高の計上方法を見直す企業が相次いでいる。きっかけは、2004年に表面化したベンチャー企業の粉飾決算事件だ。多数の業者間で伝票上の架空取引を繰り返し、売上高を水増ししていたメディア・リンクスやアソシエント・テクノロジーの事件は、業界内では特異な例と言っていい。しかし、問題が一部企業の刑事事件で終わらないのは、製品販売やサービス提供を伴わない「伝票上だけの仲介取引」が、「口座貸し」と呼ぶ業界の取引慣行になっていた点だ。

 伊藤忠テクノサイエンス(CTC)は、2004年度下期から口座貸しの売上計上方法を改めたほか、取引自体を厳しく制限する社内ルールを1月から運用した。メディア・リンクス事件に絡んだ元財務・経理部長の逮捕などを重くみたほか、「本業で利益率を回復させる経営改革に取り組んでおり、その姿勢を明確にする」(兼松泰男取締役)ためだ。

 「アライアンス・ビジネス」と呼ぶ口座貸しを2004年度から始めていたTISも、問題企業との取引はなかったものの、不信を払しょくすべく、会計処理方法の変更をさかのぼって決断。通期の売上高見通しを従来の2158億円から88億円分、下方修正した。

会計士協会が異例の提言

 日本公認会計士協会も、粉飾の手口になった業界慣行の把握と善後策に乗り出した。背景には「会計士からは、ITサービス業の取引に伴う付加価値やその意義が把握しにくい。この点につけこまれた」(増田宏一副会長)との危機感がある。3月中旬には報告書をまとめ、ITサービス企業への会計監査を厳格化するよう会員に通達した。

 実は、協会が警戒するのは、商社的な仲介取引だけではない。システム開発における納品と売上高・費用計上の間にも、実態にそぐわない面があると指摘。その典型例が、顧客や業者、元請けと下請けの間で「売り上げを認識する検収後でも、バグ修正などの追加作業が発生している」、「システムを納品・稼働させたのに、品質が基準に達せず、検収書を受領できない」といったあいまいな慣行だ。「業界が未熟」で済まされてきたこれらの取引が、公認会計士には見抜きにくい、不正会計の温床になりかねないと危ぐしたのだ。

(玄 忠雄)