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 市町村合併で全国の自治体は4割も減ると言われる。しかし自治体は、電子自治体の構築という次なる課題を抱えている。単なる市場縮小ではなく、新規市場獲得の好機ととらえるべきだ。

(横森 貴之、丸山 将一 大和総研主任研究員)


 全国で市町村合併が進行している。スムーズに合併した自治体ばかりではなく、住民投票の結果などから合併協議の中止に至った例も多い。それでも、これまで約3200あった自治体は合併により、2006年3月には1800程度と、40%以上減少する見込みだ。

 合併特例法における「財政上の優遇措置」(注1)の申請期限をにらみ、2005年3月に駆け込み的に合併の決定をした自治体も数多い。これらの自治体では合併までの期間が短く、当然、情報システム統合にも時間的余裕がない。

 一般に、自治体の首長や合併協議会の担当者は、情報システム統合の難しさやデータ移行の重要性を軽視する傾向にある。また、インターネットをはじめとする新しい情報技術が普及したことで、自治体は住民サービスの新しいインフラとして電子自治体の構築を求められている。

 合併を予定する自治体は、「安全で確実な情報システムの統合」と、「先進的なサービスを実現する電子自治体構築」という2つの側面から対応しなければならない状況にある。加えて、個人情報の保護や情報セキュリティの確保といった対策も不可欠だ。

情報システム統合の4パターン


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図1●市町村合併における情報システム統合形態
 自治体合併に伴うシステム統合には、「ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)サービス利用型」(パターン1)、「新規パッケージシステム導入型」(パターン2)、「既存システム活用型(片寄せ)」(パターン3)、「既存システム活用型(リレーコンピュータ型)」(パターン4)の4つの形態がある(図1)。

 特にパターン2の「新規パッケージシステム導入型」は、ソリューションプロバイダにとって魅力的だ。合併で誕生する新規顧客(つまり新しい市など)にアプローチする大きなチャンスとなる可能性があるからだ。

 しかし現実に非常に多いのはパターン3の「既存システム活用型」だ。「合併後の住民サービスに支障を来さないこと」や「合併予定日にシステムが円滑に稼働すること」といった大前提を守るために、とりあえず既存システムの活用を選択する自治体が多いからだ。

 しかしパターン3を選んだ自治体でも、合併が一段落した後には、電子自治体への対応を含めた新規パッケージシステム導入(パターン2)に着手する可能性も十分ある。つまり、合併が完了したかに見える自治体に対しても、新規参入の機会はあるということだ。

それぞれのパターンの長短を知る


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表1●システム統合パターンの特徴比較
 4つの統合パターンについて、長短を比較してみる(表1)。

 パターン1「ASPサービス利用型」は、パターン2の「新規パッケージシステム導入型」と同様に、新規顧客の開拓が期待できる形態だ。ASPを住民情報系システムなどに適用することについては、まだコストやリスクの面で不安材料もある。しかし追い風もある。総務省が推進する都道府県単位の共同アウトソーシング構想だ。この構想を支持する自治体向けの商談では、有利な提案となるだろう。

 パターン3の「既存システム活用型(片寄せ)」には、全業務を1つの自治体のシステムに統合する「集約型」と、構成システムごとに継続利用するシステムを変える「併用型」がある。併用型の場合、住民情報系システムを旧A市、税関連システムを旧B町といったように選択できるので、合併を予定する市町村間の“痛み分け”的な要素もあって採用されることが多い。

 ただしこの場合、複数のソリューションプロバイダの間でシステム連携の仕組みを作る必要があるので、その分のコストとリスクが発生することになる。

 パターン4の「既存システム活用型(リレーコンピュータ型)」は、既存のソリューションプロバイダが共存できる形態ではあるが、複雑な連携が必要になり、リスクが大きいため、実際にはあまり選択されない。

時間的制約との戦い

 システム統合プロジェクトの理想は、新自治体の誕生と同時にすべての情報システムが統合されることだ。しかし現実にそうなるとは限らない。

 一般的に中規模(統合後の人口が十数万人程度)の市町村合併においては、約1年またはそれ以上のシステム構築期間が必要だ。合併特例法による財政上の優遇期限である2006年3月から逆算すると、すでに合併期日の設定と情報システム統合のスケジュール設定はタイムリミットを迎えている。

 特に、合併期日とシステム統合日がずれることの多いシステムとして、税関連システムや財務会計システムが挙げられる。合併期日にすべての情報システムを統合できない場合、まずは住民記録システムの住民票発行機能や異動処理機能などを優先的に稼働させ、その他のシステムについては合併後一定期間を経てから統合するといったやり方も、現実的な選択肢の1つだ。

 この場合、現場での作業負荷が増大することを考慮する必要がある。統合後の新システムと旧市町村の既存システムを暫定的に並行稼働させざるを得なくなるため、複数の端末を使い分けたり、データを二重入力したり、といった対応が必要になるからだ。

調達プロセスの変化が商機生む

 市町村合併の現場では、公平性や透明性を維持するために、従来は多かった随意契約を見直すケースが多い。その代わりに増えているのは、「調達計画の策定」、「RFP(提案依頼書)の作成」、「調達先の選定」、「契約」といったプロセスに分割して、成果物を確認しながら進めるやり方だ。

 背景には、自治体職員の中で、住民に対する説明責任の認識が強くなってきたことがある。既存システムを構築したソリューションプロバイダとしては当然、これまでの蓄積を武器に提案活動を行うわけだが、それでも随意契約による受注は原則として難しいと理解しておいた方がよい。

 合併プロジェクトには、既存市町村の首長と情報システム部門長、既存システムを開発したソリューションプロバイダ、市町村の現場職員、合併協議会の職員など、多くの関係者が参加する。調整が困難になる場合も多い。

 「安全、確実な統合」「住民サービス低下の回避」といった基本方針では共通認識を持っていても、各論に入ると混乱を来す。一例だが、既存システムを開発したソリューションプロバイダが、導入実績のないパッケージの導入を強硬に主張し、それが優先的に受け入れられてしまうといった展開が起こり得る。

 利害関係や問題の優先順位を整理するために、外部のコンサルタントを活用する自治体もある。大抵は、激論の末、コンサルタントが提案する“公平・公正な調達プロセス”を採用し、競争原理が働く形式で調達を実施することになる。そうなると、関係者が当初想定していたのとは違う調達プロセスが動き始めるわけだが、ここに新規参入組のビジネスチャンスが生まれる。

決断迫られる“計算センター系”

 市町村合併は都市部よりも地方において活発だ。地方では地元のソリューションプロバイダ(主に計算センター出身)が自治体にメインフレーム主体のシステムを導入しているケースがあり、電子自治体向けパッケージソフトや認証基盤製品といった新しい商材をそろえた大手ソリューションプロバイダにとっては、大きな参入機会と言える。地元のソリューションプロバイダは、自社の提案に独自色を出す工夫が必要だ。

 自治体は今、電子自治体向けのオープン系システムやインターネット/XML(拡張マークアップ言語)などを活用したシステムを構築しなければならない状況にある。セキュリティ関連の要望も増えている。これら新しいニーズへの対策としては、(1)都道府県単位で設置されるデータセンターとの連携、(2)電子自治体システムへの取り組み、(3)大手ソリューションプロバイダとの提携強化、などが考えられる。

 地元のソリューションプロバイダは、従来からの受託計算ビジネスやメインフレーム主体のサービスに特化するか、それとも電子自治体など新しい分野に踏み出すか、という決断を迫られている。

 ソリューションプロバイダからの提案に対する自治体の評価を見ると、個別の業務システムをパッケージで作るといった“単品型”の提案は余り高い評価を得ていない。逆に反応が良いのは、“合わせ技”的な提案だ。例えば人事情報システムに加え、これと連動して利用制限などを行える職員認証基盤を提案するといった内容だ。

 合併自治体の情報化基本計画/構想の策定支援や、EA(エンタープライズアーキテクチャ)など、より長期的な視点からの提案も、好印象を与えている。ただし、どのような分野の商談であっても、個人情報保護や情報セキュリティの視点は不可欠だ。

注1:公共施設建設などの国の財政支援が手厚い地方債(合併特例債)発行が認められるほか、10年間は合併前の旧市町村の地方交付税交付額が維持されるなどの措置がある。 (▲戻る


■横森 貴之(よこもり たかゆき)
官公庁・自治体向けSI、電子政府・電子自治体関連の調査研究を経て、市町村合併に伴うシステム統合のコンサルティングを担当する

■丸山 将一(まるやま しょういち)
官公庁・自治体システム開発を経て、現在は電子政府・電子自治体関連を中心としたコンサルティングを担当する